1 さて,第九十一年が過ぎ去った。それはリーハイがエルサレムを去ったときから六百年であり,その年には,ラコーニアスが大さばきつかさであり,国の総督であった。
2 ヒラマンの息子ニーファイは,真鍮の版と,それまで書き継がれてきたすべての記録と,リーハイがエルサレムを去って以来神聖に保存されてきたすべての品々に関する責任を,長男のニーファイにゆだねて,ゼラヘムラの地を去っていた。
3 彼はその地を去ったが,彼がどこへ行ったかはだれも知らない。そして,彼の息子ニーファイが父に代わって記録を,すなわちこの民の記録を書き継いだ。
4 さて,第九十二年の初めには,見よ,預言者たちの預言がさらに完全に成就し始めた。民の中にさらに大きなしるしと,さらに大きな奇跡が行われ始めたからである。
5 しかし,レーマン人サムエルによって述べられた言葉の成就する時は過ぎ去ったと言い出す者たちが何人かいた。
6 彼らは同胞のことを喜び始めて,「見よ,時は過ぎ去り,サムエルの言葉は成就していない。だから,あなたがたがこのことを喜び,信じたのは,むなしいことだった」と言った。
7 そして彼らは,国中にひどい騒動を起こした。そこで,信じていた人々は,述べられていることが何らかの理由で起こらないようなことがありはしないかと,非常に悩み始めた。
8 しかし見よ,彼らは,まるで夜のない一日のような二昼一夜を確固として待ち設け,自分たちの信仰がむなしいものでなかったことを知ろうとした。
9 さて,信仰心のない者たちはある一日を特に定め,預言者サムエルによって告げられたしるしがその日までに現れなければ,これらの言い伝えを信じているすべての人を殺すことにした。
10 さて,ニーファイの息子ニーファイは,自分の民のこの悪事を見て,心に非常な憂いを覚えた。
11 そこで彼は,出て行って地に伏し,自分の民のために,すなわち先祖の言い伝えを信じていることで殺されようとしている人々のために,熱烈に神に叫び求めた。
12 そして彼は,終日熱烈に主に叫び求めた。すると見よ,主の声が彼に聞こえて言われた。
13 「頭を上げて,元気を出しなさい。見よ,時は近い。今夜,しるしが示され,明日,わたしは世に来る。そしてわたしは,聖なる預言者たちの口を通して語ってきたすべてのことを成就することを,世の人々に示す。
14 見よ,わたしは,世の初めから人の子らに知らせてきたすべてのことを成就するため,また父と子の両方の思いを行うために,わたし自身の民のもとへ行く。わたし自身のゆえに父の御心を行い,わたしの肉のゆえに子の思いを行う。見よ,時は近い。今夜,しるしが示されるであろう。」
15 さて,ニーファイに下された御言葉は告げられたとおりに成就し,見よ,太陽が沈んでも少しも暗くならなかった。こうして夜になっても暗くならなかったので,民は驚いた。
16 そして,預言者たちの言葉を信じなかった多くの者は地に倒れ,まるで死んだようになった。預言者たちの言葉を信じた者たちに対して企てた殺害の大計画が破れてしまったことが分かったからである。また,かつて告げられたしるしがすでに現れたからである。
17 そして彼らは,神の御子が間もなく御姿を現されるに違いないということを知るようになった。まことに,要するに北の地でも南の地でも,西から東に至るまで全地の面にいる人々は皆,非常に驚いて地に倒れた。
18 彼らは預言者たちが長年これらのことについて証してきたこと,またかつて告げられたしるしがすでに現れたことを知ったからである。そして彼らは,自分たちの罪悪と不信仰のために恐れ始めた。
19 そして,その夜は一晩中少しも暗くならず,まるで真昼のように明るかった。そして朝には,いつものとおりに再び太陽が昇った。そこで彼らは,しるしが与えられていたので,その日に主がお生まれになったことを知った。
20 そして,預言者の言葉のとおりに,すべてのことがことごとく成就した。
21 そして,一つの新しい星もその言葉のとおりに現れた。
22 さて,このとき以後,サタンは民の心をかたくなにし,彼らが見たそれらの数々のしるしと不思議を信じないようにさせるために,民の中に偽りを広め始めた。しかし,これらの偽りと欺きにもかかわらず,民の大半は信じて,主に帰依した。
23 さて,ニーファイは民の中に出て行き,またほかにも多くの者が出て行き,悔い改めのためのバプテスマを施し,それによって民の中に罪の大きな赦しがあった。このようにして,民はその地に再び平和を保つようになった。
24 そして,もうモーセの律法を守る必要がないことを,聖文を使って立証しようと努めながら,教えを説き始めた数人の者がいたほかは,何の争いもなかった。この数人の者は,聖文を理解していなかったので,このことを誤解したのである。
25 さて,彼らは間もなく心を改め,自分たちが思い違いをしていたことを納得した。律法はまだ成就していないことと,それはことごとく成就しなければならないことが彼らに知らされたからである。律法は成就しなければならず,まことに,それがすべて成就するまで一点一画もむなしくなることはないという御言葉が彼らに与えられた。したがって,この年のうちに彼らは自分たちの思い違いを知り,自分たちの誤りを告白した。
26 このように,すべての聖なる預言者たちの預言の言葉のとおりに数々のしるしが現れ,民に喜びのおとずれがもたらされて,第九十二年が過ぎ去った。
27 そして,第九十三年も平穏に過ぎ去ったが,ただガデアントンの強盗が山々に住んでいて,この地を荒らし回っていた。彼らのとりでと隠れ場が非常に堅固であったので,民は彼らを打ち負かせなかった。そのため彼らは多くの殺人を犯し,民の中でひどい殺戮を行った。
28 そして第九十四年に,ニーファイ人の多くの離反者たちが彼らのところへ逃げ込んだため,彼らは非常に増え始めた。このことはこの地に残っているニーファイ人に深い憂いを与えた。
29 また,レーマン人の中にも深い憂いを与える事柄があった。見よ,彼らには成人になった子供たちと年齢の進んできた子供たちが大勢いたが,彼らは独り立ちすると,あるゾーラム人たちの偽りとへつらいの言葉に惑わされ,あのガデアントンの強盗の仲間になった。
30 このようにレーマン人も苦しんだ。そして,若者たちの悪事のために,彼らの信仰と義は衰え始めた。