「全能の神の土台」『聖徒たち—末日におけるイエス・キリスト教会の物語』第1巻「真理の旗」1815-1846年(2018年)第45章
第45章—全能の神の土台
第45章
全能の神の土台
6月28日の日の出前,自宅のドアを激しくたたく音に応じたエマは,甥のロレンゾ・ワッソンが,ほこりまみれで玄関先に立つ姿を目にします。甥の言葉は,エマが最も恐れていたことを決定づけるものでした。1
間もなく,ジョセフの死を知らせながら馬で通りを駆け抜けるポーター・ロックウェルの叫び声に,町中の人々が目を覚まします。2瞬く間に,大勢の人々がスミス家の外に集まって来ました。しかし,エマは子供たちとともに家の中に閉じこもったきり,ほんの一握りの友人や下宿人以外,だれにも会おうとしません。義母のルーシー・スミスは,寝室の床を行ったり来たりしつつ,窓の外にぼんやりと視線を投げかけています。子供たちは別の部屋で,身を寄せ合ってうずくまっていました。3
エマは座り込み,独り静かに悲しみに沈みました。しばらくすると,エマは両手に顔をうずめて泣き叫びます。「なぜわたしは夫に先立たれ,子供たちは孤児になってしまったの。」
そのむせび泣きを聞きつけ,ノーブー市警察署長のジョン・グリーンが部屋に入って来ました。ジョンはエマを慰めようと,エマの苦難は彼女にとって命の冠となるだろうと言いました。
「夫こそがわたしの冠でした」とエマは強く言い返します。「ああ神よ,なぜこのようにわたしをお見捨てになったのですか。」4
その日の遅く,ウィラード・リチャーズとサミュエル・スミスが馬に乗り,ジョセフとハイラムの遺体を乗せた荷車をノーブーに運び込みました。二人の遺体は,暑い夏の日差しから保護するために木製の箱に収められ,木の小枝で覆われていました。5
ウィラードとサミュエルの両者は,前日の襲撃にひどく動揺していました。サミュエルは監獄にいる兄たちを訪ねようとしていましたが,カーセージにたどり着く前に暴徒の一人から発砲を受け,二時間以上もの間,馬に乗って追いかけ回されたのです。6一方ウィラードは,耳たぶに小さな傷を負っただけで襲撃から生き残りました。弾丸がウィラードの周囲を飛び交い,左右にいる友人を直撃するも,彼の衣服には穴一つ空くことがないだろうという,一年前にジョセフが述べた預言が成就したのです。7
それに対しジョン・テーラーは,深い傷を負ったために町を離れることができず,力一セージのホテルで生死をさまよっていました。8その前夜,ウィラードとジョンは聖徒たちに向けて,ジョセフとハイラムの殺害に対して報復することのないよう嘆願する短い手紙を書きます。ウィラードが手紙を書き終えると,失血のために弱り切っていたジョンは,かろうじて手紙に署名することができたのでした。9
ウィラードとサミュエルが神殿に近づいて来ると,聖徒の一団が荷馬車を出迎え,町に入るまでその後につき従いました。荷馬車がゆっくりと神殿の敷地を通り過ぎ,丘を下ってノーブーマンションに向かう間,ノーブーに暮らすほとんどの人々がその行列に加わりました。聖徒たちは町を歩いて通り抜けながら,人目をはばかることなくすすり泣いています。10
その行列がスミス家に到着すると,ウィラードは,ジョセフが最後にノーブー部隊に向けて話をした演台に上がりました。一万人の群衆を見渡すウィラードには,その多くが知事や暴徒たちに怒りを抱いているのが見て取れました。11
「法によって正されることを信じましょう」とウィラードは懇願します。「報復は主に委ねるのです。」12
その夜,ルーシー・スミスは心の準備をして,エマとメアリー,孫たちとともに,ノーブーマンションの食堂の外で待ち構えていました。それより前に,数人の男がジョセフとハイラムの遺体を家に運び入れ,二人の遺体を洗って衣服を着せていました。ルーシーと家族はそのときから,遺体と対面するのを待ち続けているのです。ルーシーはかろうじて正気を保ち,殺害された息子たちの姿を見る強さを与えてくださるようにと祈っていました。
遺体の準備が整うと,最初にエマが部屋に入るも,すぐさま床に崩れ落ちてしまい,部屋の外に連れ出されます。メアリーはエマの後に続き,震えながら足を進めました。母親にしっかりとしがみつく下の幼い二人の子供たちとともに,メアリーはハイラムの傍らにひざまずくと,夫の頭を両腕に抱きかかえてむせび泣きました。「愛するハイラム,撃たれてしまったの?」メアリーはそう言うと,夫の髪を優しくなでました。深い悲しみがメアリーを襲います。
友人たちの助けを借りて間もなく部屋に戻って来たエマは,ハイラムの傍らにいるメアリーに寄り添います。義理の兄の冷たい額に手を置くと,優しく語りかけました。それから,友人たちを振り返って言いました。「さあ,夫に会う用意ができたわ。もう大丈夫よ。」
エマは立ち上がると,だれの助けも借りずにジョセフの遺体へ歩み寄ります。エマは夫の傍らにひざまずくと,その頬に手を当てて言いました。「ああ,ジョセフ,ジョセフ!彼らはとうとうあなたをわたしから奪い去ったのね!」13幼いジョセフはひざまずき,父親にキスをしました。
ルーシーはあまりの悲しみに襲われ,一言も発することができません。「わが神よ」とルーシーは心ひそかに祈ります。「なぜこの家族をお見捨てになったのですか。」自分たち家族が経験してきた試練の記憶が次々と胸に迫ってきます。しかし,息子たちの生気を失った顔に目をやると,その表情は平安に満ちているように見えました。ルーシーは,ジョセフとハイラムが今や,敵の手の届かない所にいることを悟ります。
それから,次のように語る声を聞きました。「わたしは彼らをわたし自身のもとに取り上げた。彼らは安息を得るだろう。」14
翌日,この兄弟たちを称えようと,何千もの人々がノーブーマンションの外に列を成します。気温が高く,雲一つない夏の日のことでした。何時間もの間,一つのドアから入った聖徒たちが棺の傍らを通り過ぎては,別のドアから出て行きます。兄弟たちの遺体は,白い布と柔らかい黒のビロードで裏打ちされた立派な棺に収められていました。二人の顔の上はガラス板で覆われており,哀悼者たちは最後にひと目,その顔を見ることができたのでした。15
二人に対面した後,ウィリアム・フェルプスは何千人もの聖徒から成る群集に向かい,預言者の葬儀のために説教をしました。「聖見者ジョセフについて,何を言えばよいでしょう」とウィリアムは問いかけます。「ジョセフは大衆の意見に振り回されることなく,ひたすらイエス・キリストの御名によって語りました。」
ウィリアムは次のように証しました。「主の戒めと律法を授けるため,神殿を建てるため,そして愛と恵みをもって向上するよう人々に教えるため,ジョセフは生を受けたのです。また地上に,そして啓示,預言者,使徒といった純粋かつ永遠の原則の上に,わたしたちの教会を築き上げるべく,ジョセフは召されたのです。」16
葬儀の後,メアリー・アン・ヤングは,この悲劇についてブリガムに手紙を書き送っています。ブリガムは東に数百キロ離れた地で,十二使徒定員会の幾人かとともに,ジョセフの選挙運動に携わっていました。「あなたが家を離れてから,わたしたちはこの地でひどい苦難に見舞われてきました」とメアリーは書いています。「愛する兄弟であるジョセフ・スミスとハイラムが,残忍な暴徒の犠牲となったのです。」メアリー・アンはブリガムに,自分たち家族が無事であることを知らせましたが,どの程度安全であるかは分かりませんでした。この3週間,ノーブーにあてられた手紙はほぼ届かず,暴徒の攻撃による脅威が続いていたのです。
「わたしは祝福されて,この嵐のただ中にあっても穏やかな気持ちを保ち続けています」とメアリー・アンは綴っています。「家に戻る道中,どうか気をつけてください。あなたの命が危険にさらされることのないようにと望んでいます。」17
同日,バイレート・キンボールもまたヒーバーに手紙を書いています。「これほど困難な状況の下で,あなたに手紙を書くのは初めてです。」バイレートはヒーバーに,そう述べています。「神が,このような状況を今後二度と目にすることのないよう計らってくださいますように。」
バイレートが聞いたところによると,ウィリアム・ローと彼の追従者たちは,今なお復讐を果たそうと教会指導者をつけねらっていると言います。ヒーバーの身を案ずるバイレートは,夫の帰宅に気が進みません。「わたしたちが皆無事に再会できるよう,今はひたすら主の守りを祈り続けています」とバイレートは書いています。「あなたの命がねらわれていることは疑いようもありません。しかし,主があなたに知恵を授けてくださり,彼らの手から逃れられますように。」18
間もなくフィービー・ウッドラフは両親に向けて,カーセージでの襲撃について知らせる手紙を書きました。「キリストの死がそうであったように,こうした出来事が御業をとどめることはないばかりか,今後御業はますます速やかに押し進められることでしょう。」フィービーはそう証しています。「ジョセフとハイラムは今や,わたしたちとともにいたときよりもはるかに良い働きを,教会のために成すことのできる場所にいると信じています。」
そして,「わたしの信仰はかつてないほど強められています」とフィービーは明言するのでした。「この手紙を書いている今から一時間のうちに自分の命が失われるとしても,わたしは決して真のモルモニズムに対する信仰を捨てません。それが神の業であることを確かに知っているからです。」19
メアリー・アンやバイレート,フィービーの手紙が東部へと送られている間,ブリガム・ヤングとオーソン・プラットは,ジョセフとハイラムが殺されたとの噂を耳にするも,その話の信ぴょう性を確認する相手がいませんでした。その後の7月16日,二人が訪問中であったニューイングランド支部の教会員の一人が,この悲劇の詳細を伝えるノーブーからの手紙を受け取りました。手紙を読むと,ブリガムは自分の頭が打ち砕かれたかのような衝撃を受けます。かつて味わったことのないほどの絶望を感じたのです。
ブリガムは直ちに,神権に思いをはせます。ジョセフは,聖徒たちにエンダウメントを施し,彼らを永遠にわたって結び固めるのに必要なすべての鍵を持っていました。それらの鍵がなければ,主の業を推し進めることはできません。ブリガムは少しの間,ジョセフがそれらの鍵を墓へ持ち去ったのではと恐れました。
その後ブリガムは,瞬時に受けた啓示により,ジョセフがそれらの鍵を十二使徒定員会に授けたときのことを思い起こします。ブリガムは片手で自身のひざを強く打ち鳴らすと,こう言いました。「王国の鍵はまさにここに,教会とともにあるのだ。」20
ブリガムとオーソンは,東部諸州にいるほかの使徒たちと会うために,ボストンへ向かいます。二人は急いで家に戻るつもりであり,ノーブーに家族を残しているすべての宣教師にも,同じく家に戻るようにと助言しました。21
「元気を出しなさい」と,ブリガムはその地域の聖徒たちを励まします。「ある業を成すために神が一人の男を送られたからには,その務めを果たすまでは,地獄のすべての悪霊をもってしても彼を殺すことはできないのです。」ジョセフは亡くなる前に,神権のすべての鍵を十二使徒に授けており,御業を押し進めるために聖徒たちが必要とするものはことごとく残されていると,ブリガムは証したのでした。22
ノーブーでは,夫の死を嘆き悲しみながらも,子供たちや義母を自分一人で養っていくことについてエマが心配し始めます。ジョセフは,自分の家族の資産を教会の所有物から分けようと,広範囲にわたる法的措置を試みていましたが,依然としてかなりの負債が残されており,遺言もありませんでした。教会が早急に教会の資産管理者としてジョセフに取って代わる管財人を指名しないかぎり,自分たち家族は困窮状態から抜け出せないのではないか,とエマは恐れました。23
ノーブーの教会指導者たちは,指名する権能を持つのはだれかということに関して,意見が分かれていました。一部の人々は,生存する預言者の兄弟のうち最年長のサミュエル・スミスがその責任を受け継ぐべきだと信じていましたが,サミュエルは暴徒たちにカーセージから追われた後,病気になり,7月末に突如として亡くなってしまいます。24そのほかの人々は,地元ステークの指導者たちが新たな管財人を選ぶべきだと考えていました。ウィラード・リチャーズとウィリアム・フェルプスは,東部諸州へ伝道に赴いている十二使徒が戻って選定に参加できるようになるまで,決断を延ばしたいと思いました。
ところがエマは決定を強く望んでおり,直ちに委任管財人を指名するよう教会指導者たちに求めます。エマがその職に選んだのは,ノーブーのステーク会長を務めるウィリアム・マークスでした。25しかしながらニューエル・ホイットニービショップは,その選択に強く反対します。ウィリアムは多妻結婚を拒み続けており,神殿の儀式にほとんど関心を示していなかったからです。
「もしマークスが任命されるなら,彼が最も重要な事柄に好意的にならないかぎり,我々の霊的な祝福が損なわれるだろう。」ビショップは個人的にそう言明します。教会が,金融持株会社や法的債務を伴う単なる法人以上の組織であることを承知していたニューエルは,主がジョセフに明らかにされた事柄を完全に支持する者こそ,新たな管財人になるべきだと信じていたのです。26
そのころになると,傷の癒えたジョン・テーラーは,ノーブーに戻って来られるほどに回復していました。パーリー・プラットもまた伝道から戻り,ジョン,ウィラード・リチャーズ,ウィリアム・フェルプスらと合流すると,ほかの使徒たちの帰りを待つよう,エマとウィリアム・マークスに強く勧めます。早急に決断を下すよりも,正しい権能を通して新たな管財人を選定することの方が,はるかに重要だと信じていたのです。27
その後の8月3日,シドニー・リグドンがノーブーに戻って来ます。大統領選挙におけるジョセフの副大統領候補者であったシドニーは,候補者の法的要件を満たすべく別の州に移動していましたが,預言者の死について知り,大急ぎでイリノイに戻ることにしたのです。教会を導く権利を有する大管長会における,自身の地位を確実なものとするためでした。
シドニーは自らの主張を強固なものにしようと,自分は神からの示現を受け,教会が後見人を,すなわちジョセフを失った教会を養い,今後もジョセフに代わって語り続ける者を必要としていることを示されたと宣言しました。28
シドニーの到着は,パーリーやノーブーにいるそのほかの使徒たちを困惑させます。管財人を巡る対立によって,教会は重要な決断を下すために管理役員を必要としていることが明らかとなりました。ところがウィリアム・マークスと同様,シドニーは,主がジョセフに明らかにされた教えと慣習の多くを拒んできたことを,使徒たちは承知していました。さらに重要なことに,ジョセフはここ数年シドニーをほとんど当てにしておらず,彼には神権のすべての鍵を授けていないことも明白だったのです。29
到着の翌日,シドニーは教会を導くことを公然と申し出ます。ところが,神殿を完成させることについても,聖徒たちに霊的な力を授けることに関しても,何一つ言及することはありませんでした。シドニーはそれよりも,前途に危険な時代が待ち受けていると聖徒たちに警告し,この末日の間,自分が果敢に彼らを導くと約束したのです。30
後に教会指導者のある集会で,シドニーは,二日以内に聖徒たちを集めて新しい指導者を選び,管財人を指名するべきだと主張します。危機感を抱いたウィラードとそのほかの使徒たちは,シドニーの主張を検討し,定員会の残りの会員が戻って来るのを待つために,もうしばらく時間が必要だと伝えます。
ウィリアム・マークスはその要求を呑み,4日後の8月8日に集会を開くことにしたのでした。31
8月6日の夜,ブリガム・ヤング,ヒーバー・キンボール,オーソン・プラット,ウィルフォード・ウッドラフ,ライマン・ワイトらが,蒸気船でノーブーに到着したとの知らせが広まります。聖徒たちはすぐさま,それぞれの家に向かう使徒たちを通りで出迎えました。32
翌日の午後,新たに到着した使徒たちがウィラード・リチャーズ,ジョン・テーラー,パーリー・プラット,ジョージ・A・スミスに加わり,シドニーとそのほかの教会評議員とともに集会を持ちます。33この時までには,8月8日に新たな指導者を選ぶことについて,シドニーの考えが変わっていました。シドニーは当初の要望に代えて,その日聖徒たちとともに祈りの集いを開きたいと言い出したのです。教会指導者たちが一体となって「互いの心が熱く燃える」まで,決断を先送りしたいとのことでした。34
それでもシドニーは,依然として教会を導く自らの権利を主張していました。「教会はジョセフに倣って築き上げられる必要があるとの示しをわたしは受けました」と,シドニーは評議会に告げます。「我々が受ける祝福はすべて,ジョセフを通して与えられるべきなのです。」またシドニーは,最近自分の受けた示現が,10年以上前にジョセフとともに自身が目にした,天の壮大な示現の続きであると断言するのでした。
「わたしはジョセフの代弁者に聖任されています。」シドニーは1833年にジョセフが受けた啓示を引き合いに出し,そう言い募ります。「そこで,わたしがノーブーに来て,教会が正しい方式で管理されていることを確認する必要があったのです。」35
シドニーの言葉は,ウィルフォードに何の感銘も与えませんでした。「それは低い次元に属する示現だった」とウィルフォードは日記に記しています。36
シドニーが話し終えると,今度はブリガムが立ち上がり,ジョセフは使徒職に付随する鍵と力のすべてを十二使徒に授けたことを証します。「だれが教会を導こうと,わたしは意に介しません」とブリガムは言います。「しかし知るべきは,神がそれについて何と言われるかということです。」37
シドニーの祈りの集いが開かれるはずの8月8日,ブリガムは早朝に行われた定員会との集会に姿を現しませんでした。ブリガムにしては,かつてないことです。38外に出ると,ブリガムは何千人もの聖徒たちが神殿近くの森に集まっているのを目にしました。風が激しく吹きすさぶ朝で,荷馬車の中に立つシドニーの背後では,強い風が絶えず吹き荒れていました。シドニーは祈りの集いを開くどころか,自分を教会の後見人とするよう再び提示します。
シドニーはさらに一時間以上にわたって話をし,ジョセフとハイラムは永遠にわたってそれぞれの神権の権能を保持するであろうことや,二人がその死後も十二分に教会を導くことのできる教会評議会を組織したことについて証しました。「すべての人が自分の職,すなわち自身の召しにおいて,エホバの前に立つことになるだろう」とシドニーは宣言しました。そして再び,自分自身の職はジョセフの代弁者としての召しであると提示します。シドニーはこの件について,会衆による投票を望んではいませんでしたが,聖徒たちに自身の見解を知らしめたいと思っていたのです。39
シドニーが話し終えると,ブリガムは群衆に,もうしばらくその場にとどまるよう呼びかけました。そして,どのような教会の実務であれ,それを整える前にジョセフの死を悼む時間を持ちたいと言いました。それでもブリガムは,新たな指導者を選ぶことが聖徒間における緊急事項であることを認識していました。聖徒たちの中に,神の御心に反して権力を握ろうとする者たちがいることを憂慮していたからです。
こうした問題を解決するべく,ブリガムは聖徒たちに,新たな教会指導者を支持するため,その日の午後にもう一度集まるよう求めます。彼らは定員会によって,また教会組織として投票を行おうとしていました。「我々は5分のうちに,そうした実務を行うことができます」とブリガムは言います。「我々は互いに対立した行動を取るつもりはありません。すべての男女がアーメンと言うことでしょう。」40
その日の午後,エミリー・ホイトは集会のために森へと戻りました。預言者のいとこであるエミリーは30代後半で,教師養成学校の卒業生です。この数年にわたり,エミリーと夫のサミュエルはジョセフやハイラムとの親交を深めており,兄弟たちの突然の死は二人に深い悲しみをもたらしました。それでもエミリーとサミュエルは,シドニーの祈りの集いに出席しようと,アイオワ準州の川を渡り,その日ノーブーにやって来たのでした。41
2時ごろ,神権定員会と評議会が一堂に会し,壇上とその周りの席に着きました。それからブリガム・ヤングが,聖徒たちに話をするために立ち上がりました。42「リグドン会長が教会の大管長であることについて多くが語られました」とブリガムは言います。「しかし皆さんに申し上げます。全世界における神の王国にかかわる鍵を有しているのは十二使徒定員会であります。」43
エミリーはブリガムの話に耳を傾けながら,話者がジョセフではないことを確かめるために,思わずブリガムを見上げずにはいられませんでした。ブリガムの顔の表情や話しぶり,またその声音でさえ,ジョセフそのものだったのです。44
「預言者であるジョセフ兄弟は,偉大な業のために土台を据えました。我々はその土台の上に築き上げるのです」とブリガムは続けます。「今や全能者の土台が据えられており,我々はこの世にかつて存在しなかったような王国を築くことができるのです。サタンが聖徒たちを滅ぼし尽くしてしまう前に,我々が王国を築くことでしょう。」
それでも聖徒たちは,主の御心に従い,信仰によって生き,ともに働く必要があるとブリガムは宣言しました。「シドニー・リグドンまたはウィリアム・ロー,あるいはほかのだれかに導いてほしいのなら,彼らは皆さんを歓迎することでしょう。しかし,主の御名によって皆さんに申し上げます。十二使徒会と預言者ジョセフの間に立つことのできる者は,だれ一人としていないのです。なぜでしょうか。ジョセフは全世界のために,この最後の神権時代における神の王国の鍵を十二使徒の手に委ねたからです。」45
エミリーは,ジョセフに授けられた御霊と力が今やブリガムにとどまっていることを感じつつ,十二使徒会を教会の指導者として支持するよう聖徒たちに呼びかける使徒ブリガムの姿を見守りました。「今や,すべての男女,すべての定員会が整えられています」とブリガムは言います。「聖徒から成る全会衆の皆さん,これに賛同してくださる方は皆,右の手を挙げてそれを示してください。」
エミリーと全会衆が,それぞれの手を挙げました。46
「成すべきことは多くあります」とブリガムは言います。「基は預言者によって据えられています。その上に,我々が築き上げるのです。すでに据えられている土台のほかに,別の土台が据えられることなどあり得ません。そして主の御心であるならば,我々は自身のエンダウメントを受けるでしょう。」47
7年後,エミリーはブリガムが聖徒たちに語るのを目にしたときの経験を記し,壇上に立つブリガムがいかにジョセフのようであったかを証しています。その後の数年のうちに,数十人もの聖徒たちが,その日ジョセフの預言者の外套がブリガムの肩に掛けられたのを目にしたときの様子を記し,エミリーの証に自身の証を加えることとなったのでした。48
エミリーはこう書いています。「聖徒たちの諸事を管理するブリガムの権能に疑念を抱く人がいるなら,その人たちに申し上げたいことは一つだけです。神の御霊を受け,自分自身で知ってください。そうすれば,主御自身が示してくださるでしょう。」49
大会の翌日,ウィルフォードは,町全体が引き続き陰鬱な空気に覆われているのを感じます。「預言者と祝福師はもういない」とウィルフォードは日記に書きました。「そして,何事かを成そうとする望みはわずかなものに思える。」そうは言いつつも,ウィルフォードと十二使徒会は直ちに仕事に取りかかります。その日の午後,十二使徒会はビショップであるニューエル・ホイットニーとジョージ・ミラーに会い,二人を教会の管財人として働くよう任命し,ジョセフの財政に関する問題の解決に当たらせたのです。50
3日後には,アマサ・ライマンを十二使徒定員会に召し,アメリカ合衆国の東部諸州とカナダを分割して,大祭司による管轄区域としました。ブリガム,ヒーバー,ウィラードらは幾人かをこれらの職に召し,アメリカにおける教会の監督に当たらせます。一方ウィルフォードは,フィービーとともにイギリスに赴き,伝道部を管理し,印刷設備を整えることとなります。51
ウィルフォードが伝道に備える間,ほかの使徒たちはノーブーの教会員を強めるべく尽力しました。聖徒たちは8月8日の集会で十二使徒会を支持しましたが,何人かの男たちが,教会を分裂させて人々を引き離すべく,すでに画策し始めていました。そうした連中の一人に,教会の新会員であったジェームズ・ストラングがいました。彼は,自分を真の後継者に任命すると記された,ジョセフからの手紙を持っていると主張します。ジェームズはウィスコンシン準州に家を構えており,その地に聖徒たちを集合させようと目論んでいたのです。52
ブリガムは聖徒たちに,離反者に従わないよう警告します。「散り散りになってはなりません。」ブリガムは強い口調で,聖徒たちに呼びかけました。「ここノーブーにとどまって,神殿を築き,自分自身のエンダウメントを受けるのです。」53
神殿を完成させること,それが教会員に残された重点事項でした。イギリスへと旅立つ前日の8月27日の夜,フィービーとウィルフォードは友人たちとともに神殿を訪れました。二階のほぼ最上部にまで達しようとしている神殿の壁の基礎部分に立つと,ウィルフォードとフィービーは,月明かりに照らし出された建物の壮大さと荘厳さに心打たれます。
二人ははしごを使って壁の最上部に登り,ひざまずいて祈りをささげました。ウィルフォードは,聖徒たちに神殿を築く力を与えてくださった主に感謝を述べ,彼らが神殿を完成させてエンダウメントを受けられるよう,そして世界中に神の業を確立できるようにと懇願しました。またウィルフォードは,伝道地において自分とフィービーを守ってくださるよう,主に願い求めました。
「わたしたちが義をもって使命を果たせるようにしてください」とウィルフォードは祈ります。「そして再びこの地に戻り,平和のうちに主の家の中庭を歩めるようにしてください。」54
翌日,ウィルフォード夫妻が出発する直前のこと,ブリガムはフィービーに,彼女を待ち受ける業に向けて祝福を与えました。「あなたは伝道において,夫と同様に祝福され,多くの善を行う仲立ちとなるでしょう。」ブリガムはそう約束します。「心からへりくだって行くならば,あなたは無事に戻って,主の神殿で聖徒たちと会し,そこで喜びを得るでしょう。」
その日の午後,ウィルフォードとフィービーはイギリスへと旅立ちます。二人とともに出発した宣教師の中には,ジョセフの預言を成就すべくウェールズへと向かう,ダン・ジョーンズとその妻ジェーンがいたのでした。55