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緊急時の備えに役立つ情緒的なレジリエンス


「緊急時の備えに役立つ情緒的なレジリエンス」『緊急時の備え』(2023年)

緊急時の備えに役立つ情緒的なレジリエンス

抱き合う二人の女性

はじめに

情緒的なレジリエンスは,緊急時の備えについて考えるときにまず思いつくものではないかもしれません。ラッセル・M・ネルソン大管長は情緒的な備えについて関心を寄せ,次のように述べています。「段階を踏んで物質的な備えをするようお勧めします。しかし,わたしは皆さんの霊的および情緒的な備えによりいっそう関心があります。」(「信仰をもって将来を待ち望む『リアホナ』2020年11月号,74)情緒的な強さとレジリエンスは,最良の状態の時には人生を向上させ,また一方で逆境を切り抜ける助けにもなる大切な特質です。

緊急時などの危機的状況に対して情緒的に備えるために知っておくべきことを幾つか紹介します。

情緒的なレジリエンスとは何か

情緒的なレジリエンス(情緒的な強さ,あるいは心理的回復力と呼ばれることもある)とは,ストレスや逆境に耐え,適応し,回復する能力のことです。

アメリカ合衆国保健福祉省によると,情緒的なレジリエンスには,「効果的な対処法を用いることによって,精神面の健康状態を良好に維持する,あるいは良好な状態に回復する」能力も含まれます。アメリカ心理学会によると,情緒的なレジリエンスとは,人生の試練に適応するために情緒的な柔軟性を用いる能力です。

情緒的なレジリエンスの利点

様々な状況が情緒的ストレスを引き起こします。レジリエンスのスキルが限られている人にとっては,このストレスが肉体的および精神的な健康不安を助長することになる可能性があります。レジリエンスのある人も情緒的な痛みを経験しますが,彼らには,情緒的に打ちのめされても耐え,適応し,立ち上がる能力があります。

緊急時が起こる前に情緒的なレジリエンスを育むことは,長期にわたる精神的,情緒的な不安を軽減する助けとなります。自分の感情をコントロールすることを学ぶことで,感情を情報として用い,どのように反応するかを選択できるようになります。

ただ反射的に反応するのではなく,どのように反応するかを選択するとき,わたしたちは自分がこうありたいと望む姿,すなわち自分の価値観とより一致した行いをするようになります(2ニーファイ2:26参照)。自分の感情を理解し,感じ,コントロールすることで,ほかの人々を気遣うことができます。また,必要なリソースを見つけようとするとき,より効果的になることができます。

情緒的なレジリエンスの特徴

情緒的なレジリエンスがある人は,情緒的,精神的,および行動的柔軟性のスキルを身につけています。安全で親密な人間関係を築き,維持します。困難な経験に適応するための具体的な対処法も身につけているかもしれません。情緒的な強さを築くために,希望と信仰の原則を用います。

これらのスキルによって,レジリエンスがある人は環境に適応し,情緒的および心理的な不安を軽減させる準備ができています。

緊急時に情緒的なレジリエンスが大切なのはなぜか

自然災害,予期せぬ死,失業など,どのような緊急事態もトラウマ的な出来事になり得ます。このような試練に対する一般的な反応には,不安や心配のレベルの上昇,恐れや無力感の上昇,安心感の低下,怒りの感情などがあります。また多くの人が,発汗,吐き気,不眠といった深刻なストレスによる身体的症状や,自分の宗教や人生の大切さに対する信念の低下を経験します。

このような反応に圧倒されてしまうこともあります。過度のストレスは決断力を乏しくさせ,緊急事態に適切に対応するのが困難になります。困難な感情に圧倒されると,自分自身やほかの人を気遣い,習慣的なルーティンに戻るのがより難しくなります。これをそのままにしておくと,圧倒された感情によって全体的な機能が低下し,人間関係が破綻し,メンタルヘルスの問題につながっていきます。

危機の前に情緒的なレジリエンスを築く

災害の前にレジリエンスを築いておくことは,備えの良い方法です。精神的なレジリエンスは自然に生じるものではありません。では,どうすればレジリエンスを高めることができるでしょうか。

日々の原則

今あなたが直面している試練から始めてみましょう。たとえ今,緊急事態を経験しているわけではないとしても,不安や心理的な苦悩をもたらす何かしらの原因に直面しているのではないでしょうか。そのようなストレスのある状況は,情緒的なレジリエンスを築くとても良い機会となります。

情緒的なレジリエンスは,マインドフルネスや,自分自身やほかの人に対する思いやりといった原則と密接に結びついています。あなたの生活でストレスのある状況が,より思いやりを持つことでどのように改善されるかを考えてみてください。マインドフルネスを高めることはどのように役立つでしょうか。これらの原則を応用しても状況が変わることは多くありません。しかし,状況に対するあなたの見方や,感情的な反応は変わります。それによってストレスが軽減し,情緒的なレジリエンスが築かれます。

忍耐し,いつの日かあらゆる苦難を離れて休めるという確固とした望みをもって,それらの苦難に耐えましょう。(アルマ34:41参照)

「主に力を見いだす:レジリエンスを高める」コース

教会は,情緒的なレジリエンスに関する自立コースを提供しています。このコースでは,メンタルヘルス,情緒的なレジリエンスについて,そして人生の試練によりよく耐えるために希望と信仰の原則をどのように取り入れるかについてさらに学ぶことができます。参加者はグループで活動することで,情緒的なレジリエンスのある人が前進するために必要な,社会的な支援やつながりを得ることができます。

危機の際にレジリエンスを高めるにはどうすればよいか

もしあなたが現在緊急事態にあって,不安とストレスに押しつぶされそうになっているのであれば,レジリエンスのスキルを身につける経験がそれまであまりなかったとしても,情緒的な健康を高めるためにできることがあります。

自分の感情を認め,感じる

まず大切なのは,情緒的なレジリエンスがあるとは,自分の感情に蓋をしたり,無視したりすることを意味するのではありません。強い感情的な反応は,危機に面したときに起こる正常な反応です。レジリエンスがある人は,試練を通して成長する助けとなる,健全な対処法を見いだします。それでは,危機にあるとき,どのように対処すればよいのでしょうか。

体をいたわる

危機的状況において,体が闘ったり,逃げたり,あるいはそのほかの防御反応を見せるのは一般的なことです。過覚醒や恐怖,怒り,感情のシャットダウンなどを経験することもあります。食欲がなくなり,眠れなくなることもあります。これらの反応はあなたを危機から守るためのものですが,それが長引けば不健全なものとなっていきます。ですから,休息を取ることを意識してください。十分な睡眠を取るように最善を尽くしてください。食事,水分補給,運動をしてください。精神的に再充電し,自分自身とほかの人を助ける備えができるように,自分の体をいたわることを忘れないでください。

対人関係を強める

情緒的なレジリエンスは孤立した状態で鍛えられるものではないことを覚えておくのも大切です。レジリエンスがある人は,社会的および霊的な支援に頼ります。神やまわりの人々とのつながりを保ってください。支援のネットワークを強化し,人に奉仕し,自分自身や地域社会に思いやりを奨励してください。神やほかの人々とつながっていることで,ストレスのレベルを低下させ,緊急時による長期的な影響を軽減させる助けとなります。そしてあなたの抱えている必要について話すことも忘れないでください。情緒的なレジリエンスがある人は,すべてを一人で行おうとはしません。必要な時には助けを求めるのです。

問題の解決に集中する

レジリエンスがある人はまた,現実的でポジティブな精神状態を保つように努めます。もしあなたが危機的状況にあるなら,問題解決に集中するとよいかもしれません。目標を重視した視点を保つことは,たとえその目標が,目を覚ますことや,祈ること,その日の支度をすることのような小さなことであったとしても,それに向けて努力することで前向きな感情を持つとき,情緒的な健康を保つ助けとなります。ユーモアのセンスを働かせることも助けとなります。

情緒的なレジリエンスはきわめて重要な備えのスキルである

どのような状況であれ,人は皆困難な時期を経験します。情緒的なレジリエンスは,人生の試練に耐え,適応し,回復する助けとなる大切なスキルです。特に大変な困難において,情緒的なレジリエンスは喪失やトラウマによって引き起こされる長期にわたる苦悩を軽減する助けとなります。

あらゆる種類の緊急事態に対して備えようと努めるとき,自分の情緒的なレジリエンスを築くことをないがしろにしないでください。友人や家族に,社会的な支援を求めてください。そうすることにより,レジリエンスのスキルを身につけるように家族や地域社会の皆を鼓舞するような,情緒的なレジリエンスのロールモデルとなることができます。

あなたがたは強く,かつ勇ましくなければならない。彼らを恐れ,おののいてはならない。あなたの神,主があなたと共に行かれるからである。主は決してあなたを見放さず,またあなたを見捨てられないであろう。(申命31:6

  1. U.S. Department of Health and Human Services, “Individual Resilience,” Administration for Strategic Preparedness and Response, aspr.hhs.gov/at-risk/Pages/individual_resilience.aspx.

  2. See “Resilience,” American Psychological Association, apa.org/topics/resilience.