1 さて見よ,リーハイがエルサレムを去ったときからもはや五十五年が過ぎ去った。そして,ニーファイはわたしヤコブに,これらの事柄が刻まれている小さい版について指示を与えた。
2 彼はまたわたしヤコブに,いちばん貴いと思うわずかなことだけをこの版に書き記すこと,またニーファイの民と呼ばれるこの民の歴史については,少ししか触れてはならないことを命じた。
3 ニーファイは,彼の民の歴史は彼のほかの版に刻まなければならないこと,そしてこの小さい版はわたしが保存して,代々わたしの子孫に伝えなければならないことを告げた。
4 また神聖な説教や重要な啓示,あるいは預言があれば,それらの要点をこの版に刻むように,そしてキリストのため,またわたしたちの民のためにできるだけ多く書き記すようにと言った。
5 わたしたちは信仰を持ち,また民のことを大いに心配していたので,将来彼らに何が起こるかが,すでに明らかにされていた。
6 また,わたしたちは多くの啓示を受け,十分な預言の霊を授かっていたので,将来来られるキリストのことも,将来築かれるキリストの王国のことも知っていた。
7 それゆえ,わたしたちは,民が神の安息に入るようにするために,民の中で熱心に働いて,キリストのもとに来て神の慈しみにあずかるように彼らに説き勧めた。もし民がそうしなければ,かつてイスラエルの子らが荒れ野にいた試練の日々に神の怒りを引き起こしたときのように,神が激しい怒りを示して,わたしたちの民も安息に入ってはならないと誓いをされる恐れがあったからである。
8 それで,わたしたちが神に願ったのは,すべての人が神に背くことや神を怒らせることをせず,キリストを信じ,キリストの死について考え,キリストの十字架を負い,世の辱めを忍耐するよう,わたしたちが彼らを説得できるようにということであった。それゆえ,わたしヤコブは,兄ニーファイから命じられたことを果たす責任を引き受けるのである。
9 ところで,ニーファイは年を取ってきて,自分の死が近いことを知った。それで彼は一人の男に油を注ぎ,彼を王たちの統治に従ってその民を治める王とし,統治者とした。
10 民はニーファイを非常に愛していた。ニーファイは彼らの偉大な守り手であり,彼らを守るためにラバンの剣を振るい,生涯民の幸いのために働いてきたからである。
11 そのために,民は彼の名を記憶にとどめておきたいと願った。それで民は,ニーファイに代わって治める者を,それがだれであろうと,王たちの統治に従って,ニーファイ二世,ニーファイ三世などと呼んだ。彼らの実際の名がどうであろうと,民はこのように呼んだのである。
12 そして,ニーファイは死んだ。
13 さて,レーマン人でない民はニーファイ人であったが,民はそれぞれニーファイ人,ヤコブ人,ヨセフ人,ゾーラム人,レーマン人,レムエル人,イシマエル人と呼ばれた。
14 しかし,わたしヤコブは,今後このような名で民を区別しない。ニーファイの民を滅ぼそうとする者をレーマン人と呼び,ニーファイに好意を持っている者をニーファイ人,すなわち,王たちの統治に従ってニーファイの民と呼ぶ。
15 さて,二代目の王の治世になって,ニーファイの民は次第に心をかたくなにし始め,多少悪習にふけるようになった。その悪習とは,昔ダビデと息子ソロモンが,多くの妻とそばめを好んだようなことである。
16 そのうえ彼らは,多くの金と銀を探し求めるようになり,また多少高慢になり始めた。
17 それで,わたしヤコブは,すでに主から務めを託されていたので,神殿で教えを説いたときに次の言葉を彼らに告げた。
18 わたしヤコブと弟ヨセフは,ニーファイの手によってこの民の祭司と教師に任じられていたからである。
19 そしてわたしたちは,もし自分たちが力の限り神の言葉を民に教えなければ,民の罪を自分たちの頭に受けるという覚悟で責任を受けたので,主に対して自分たちの務めを尊んで大いなるものとした。そしてわたしたちは,民の血がわたしたちの衣にかかることのないように,力の限り働いた。そうしなければ,彼らの血がわたしたちの衣にかかって,わたしたちは終わりの日に染みのない者とは認められないであろう。