2023
まず神の国と神の義とを求めなさい
2023年7月号


◉若い世代の声 ─ Youth Voice

まず神の国と神の義とを求めなさい

柳沼 輝兄弟が中学2年生のときだった。秋のステーク大会,土曜夜の部会に家族と共に出席した輝兄弟は,この日訪れたアジア北地域会長(当時)チェ・ユーンフワン長老の話に引き付けられた。チェ会長は,「まず神の国と神の義とを求めてください」(マタイによる福音書6:33参照)と語りかけ,ある兄弟の体験談を紹介する。勉強熱心な彼は成績に伸び悩み,苦しんでいた。どうすればいいのか考えていたある日,「安息日を覚えて,これを聖とせよ」(出エジプト20:8)という主の言葉を思い出し,安息日には勉強をしないと決めた。その結果,成績が伸び,難関と言われるアメリカの大学に進学して,成功を収めている─という話だった。「安息日は勉強をするのではなく,もっと神様のこと,家族の時間を増やすこと,福音に触れる時間を増やすようにしましょう。」このメッセージは輝兄弟の心に響いた。「ぼくも思うように点が取れずにいて,成績を上げたいと思っていました。それで,興味本位で,真似してやってみようかなと。」ちょうど期末テストまであと1か月。自分も安息日には勉強をせず神様のことをして,テストに臨んでみようと決意した。

人生の土台を築いた体験

9科目あった期末テストでは,問題を解きながら手応えを感じた。結果は,250人中40位。90位からの大躍進だ。初めて上位2割に入ることができ,「やったー!」と心の中で叫んだ。

輝兄弟は,この試みの成果をこう振り返る。「日曜日に勉強を休むから休める,というか,疲れませんでした。勉強をしないから早く寝て,たくさん寝て,月曜日また頑張ろうと思える。日曜日に勉強しない分,他の日に頑張らないといけない,頑張ろうというモチベーションが上がりました。それと,教会のことが楽しくなりました。」勉強への取り組みも変わった。「安息日に勉強をしないと決めたことが原因で成績を落としたくない気持ちもありました。安息日を守っているので大丈夫,神様を信じる信仰はありましたが,ぼく自身も頑張ろうと思いました。他の日も遊ぶ時間を減らしたので,むしろ勉強時間は増えていたかもしれないです。」約束が成就するように,自分にできる精一杯のことをして,神様を近くに感じる時を過ごした。「まず神の国と神の義とを求めなさい。そうすれば,これらのものは,すべて添えて与えられるであろう。」これを試してみて,やり切ったという達成感と,聖句が真実だという証を得た。「初めて好きな聖句ができました。この聖句と経験が,今もずっとぼくの土台になっています。」

その後,高校には,柔道のスポーツ推薦で進学した。柔道は中学に入る直前から始め,頑張って良い結果を残してきたのだった。日曜日に部活のない高校を選び,勉強も柔道も教会のことも頑張ろうと,輝兄弟は胸を膨らませた。

イエス・キリストはすべての苦痛を分かってくださる

柔道部員は約20名で,大半がスポーツ推薦で入学していた。輝兄弟は7時15分からの朝練に合わせて5時台に起き,母親が準備してくれた弁当やおにぎり,パンなど,何食分もの食べ物をカバンに詰めて,約1時間かけて自転車と電車で通学する。放課後の練習を終えて帰宅するのは21時か22時頃。帰宅すると急いで食事を取り,21時から始まる名古屋ステーク合同のオンラインセミナリーに,できる限り出席した。

練習の厳しさは中学生時代の比ではなかった。体は痛く,けがも経験し,試合の結果も思わしくない。体も心も苦しみ,すごく落ち込んだ。テスト期間中も練習はあり,成績も落ちていく。毎週教会に集ってはいたが,聖典を読まない日もあり,何もかも中途半端でダメだと自分を責めることもあった。それが何度も繰り返された。

支えとなったのは,高校2年の秋にセミナリーで学んだデビッド・A・ベドナー長老の言葉だ。「わたしたちが現世で直面する肉体的な痛み,霊的な傷,苦悩や心痛,病や弱さのうち,救い主が経験なさらなかったものは一つもありません。」輝兄弟はこの言葉にすがった。「落ち込んでいて,心がきついとき,『神様の愛を感じさせてください。毎日がしんどくて,今,とてもきついです。どうか平安を感じさせてください』という祈りばかりしていました。数え切れないくらい祈って,一日一日をやっと乗り越えながらやってきた感じです。イエス・キリストが,今ぼくが経験している感情をすべて経験して分かってくれている。だから心強くて,独りじゃないという気持ちになれました。」

その集大成は,高校3年生8月の引退試合,福岡で行われた全国大会だった。団体の勝ち抜き戦で,代表5人のうちの1人に選ばれた。先鋒を任された輝兄弟の階級は66kg以下だが,相手校の2人目以降にはより重量級の選手がずらりと控えている。輝兄弟は,得意の一本背負投で2人抜きを達成,自分より重い選手にも勝利した。3人目と向かい合ったときも,「まだいける」と燃える感覚があった。惜しくも敗れるが,先生たちはその闘志と戦いぶりを目にし,「これまで真面目によくやった」とたたえた。結果を出せずに苦しんだ3年間だったが,努力は結果に繋がるという大事な真理を知った引退試合。ここまでやって来られたのは,神様が最後まで助けてくださっていたからだと確信した。

すべてのことを秩序正しく,勤勉に

両親は子どもたちの将来の選択肢のためにと,輝兄弟が小学5年生のときにブリガム・ヤング大学(BYU)プロボ校,中学生のときにBYUハワイ校見学のための家族旅行を計画してくれた。教会員が集まって学問をする環境に輝兄弟は迫力を感じ,そのような場で学びたいと思った。そして高校に入学し,「卒業後はBYUハワイ校に進学して,異文化間の平和構築について学びたい」という進路のイメージが固まっていく。ところが,部活を引退し,高校卒業まで半年の時点で,BYU進学に必要な英検2級A1どころか,2級にも合格していなかった。

9月からは,教会が提供するイングリッシュコネクトのオンラインクラスに登録した。日本と韓国の同学年の20人ほどがZoomで参加しており,7割ほどの生徒がBYUへの進学を希望している。全員の自己紹介の後,先生からの質問が回ってきたとき,他の子は英語でいっぱい答えているのに,輝兄弟は質問の意味も分からず,「パス」と言って逃れる。何を話しているのかまったく分からないまま90分が過ぎた。「落ち込みました。やばいなと思って,焦って,しんどくなって……。BYUハワイ校に絶対行きたいけど,ちょっと難しいかな,自分は全然だめだな,と。」

輝兄弟は沈んだ気持ちで就寝の準備をし,インスティテュートのテキスト「伝道への備え」を開いた。教会の大掃除のときに書記室で見つけてもらい受け,高2からほぼ毎晩読んでいる本だ。─「賢明に秩序正しく行うようにしなさい。……勤勉に励むことは必要なことである」(モーサヤ4:27)の聖句に目が留まる。これまで柔道ばかりの生活で勉強から遠ざかっていたが,この言葉を試したいという思いが自然に湧いてきた。秩序正しく─その意味は知っている。「時間がなくて焦る気持ちはあるけど,まず神の国と神の義とを求める。もっと神様のことを優先しよう!」 先ほどまでの落ち込みは退き,平安が戻り,ポジティブになっている自分がいた。

翌週のオンラインクラスでは,皆と話し合う時間があった。「日本では明日は祝日で,休みだよ。」自分から話しかけると,韓国の仲間から「ああ,いいなあ」の言葉が返ってきた。言葉が通じると心も通い合う。不安があっても,皆と話すと元気になれる。それを繰り返すうち,次第に聞き取ることも話すことにも慣れてきた。英検の勉強は平日に集中して頑張った。電車の中でも隙間時間を使って勉強し,できるだけ英語に触れるよう努めた。そして,わずか2か月後の受験当日,輝兄弟は問題を解きながら,十分な手応えを感じる。

合否結果の発表日には,学校から帰ってすぐにネットで確認した。─「2級A合格」! スコアは200点も上がっていた。「また神様に助けてもらった。今回も神様は約束を守ってくださった。」感謝の気持ちでいっぱいになった。

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神様を第一にすれば,神様は自分を「強くして下さ〔り〕,何事でもすることができる。」(ピリピ4:13)2「教会のことを一番にしているので,日曜日が一番楽しい」と語る輝兄弟にとって,安息日は文字通り,人のために与えられた休息の日,礼拝の日,楽しみの日,喜びの日だ。この春に高校を卒業した輝兄弟は,さらに堅固になった証を胸に,今年9月,ハワイへと旅立つ。

  1. 英検2級は高校卒業レベルの英語力(1980スコア以上)を示す。読む,聞く,書く,話すの4技能で測られる。2級Aは2150スコア以上で,海外の多くの大学・カレッジに語学力証明として認定されている

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