1 さて，アルマの息むす子こたちは御み言こと葉ばを告つげ知しらせるために民たみの中なかに出でて行いった。また，アルマ自じ身しんも休やすんでいることができず，彼かれもまた出でて行いった。

2 ところで，彼かれらの宣せん教きょうについてはこれ以い上じょう述のべないが，ただ，彼かれらが預よ言げんと啓けい示じの霊れいによって御み言こと葉ばと真しん理りを宣のべ伝つたえたとだけ言いっておく。彼かれらは召めされている神かみの聖せいなる位くらいに従したがって教おしえを説といた。

3 ここで，ニーファイ人じんとレーマン人じんの間あいだの戦せん争そうの話はなしに戻もどろう。それはさばきつかさの統とう治ち第だい十八年ねんのことである。

4 さて見みよ，ゾーラム人じんはレーマン人じんとなってしまった。そして第だい十八年ねんの初はじめに，ニーファイ人じんの民たみはレーマン人じんが攻せめ寄よせて来くるのを見みて，戦せん争そうの準じゅん備びをした。すなわち，彼かれらはジェルションの地ちに軍ぐん隊たいを集あつめた。

5 さて，レーマン人じんは数すう千せん人にんの軍ぐん勢ぜいでやって来くると，ゾーラム人じんの土と地ちであるアンテオヌムの地ちに入はいって来きた。彼かれらの指し揮き官かんはゼラヘムナという名なの男おとこであった。

6 ところで，アマレカイ人じんは元がん来らいレーマン人じんよりももっと邪じゃ悪あくで，殺さつ人じんを好このむ気き質しつを持もった者ものたちであったので，ゼラヘムナがレーマン人じんを率ひきいる連れん隊たい長ちょうとして任にん命めいした者ものたちは皆みな，アマレカイ人じんとゾーラム人じんであった。

7 彼かれがこのようにしたのは，レーマン人じんに引ひき続つづきニーファイ人じんを憎にくませ，レーマン人じんを服ふく従じゅうさせて自じ分ぶんの企くわだてを果はたすためであった。

8 見みよ，彼かれの企くわだては，レーマン人じんをそそのかしてニーファイ人じんに対たいして怒いかりを抱いだかせることであった。彼かれがこのようにしたのは，レーマン人じんを支し配はいする大おおきな権けん力りょくを自じ分ぶんのものとし，さらにニーファイ人じんを奴ど隷れいにして彼かれらを支し配はいする権けん力りょくをも得えるためであった。

9 ところが，ニーファイ人じんの目もく的てきは，自じ分ぶんたちの土と地ちと家いえ，妻さい子しを保ほ護ごして，これらのものが敵てきの手てに落おちないようにすること，また自じ分ぶんたちの権けん利りと特とっ権けんと，望のぞみのままに神かみを礼れい拝はいできる自じ由ゆうを保たもつことであった。

10 彼かれらは，もしレーマン人じんの手てに落おちれば，霊れいとまことをもって神かみを，すなわちまことの生いける神かみを礼れい拝はいする者ものを皆みな，レーマン人じんが殺ころすことを知しっていたからである。

11 彼かれらはまた，レーマン人じんが彼かれらの同胞はらから，すなわちアンモンの民たみと呼よばれているアンタイ・ニーファイ・リーハイの民たみに対たいしてひどい憎にくしみを抱いだいていることも知しっていた。アンモンの民たみは武ぶ器きを取とろうとしなかった。彼かれらは聖せい約やくを交かわしており，それを破やぶろうとはしなかった。したがって，もしレーマン人じんの手てに落おちれば，彼かれらは滅ほろぼされたであろう。

12 ニーファイ人じんは，彼かれらが滅ほろぼされるままにしておくのを望のぞまなかったので，彼かれらに受うけ継つぎとして土と地ちを譲ゆずった。

13 そして，アンモンの民たみはニーファイ人じんに，彼かれらの軍ぐん隊たいを支し援えんするために自じ分ぶんたちの持もち物ものの多おおくを提てい供きょうした。このようなわけで，ニーファイ人じんはやむを得えず単たん独どくでレーマン人じんに立たち向むかうことになった。一いっ方ぽうレーマン人じんは，レーマンとレムエルとイシマエルの息むす子こたちの子し孫そん，およびニーファイ人じんから離り反はんしてアマレカイ人じんやゾーラム人じんになったすべての者もの，ならびにノアの祭さい司したちの子し孫そんから成なっていた。

14 その子し孫そんはニーファイ人じんとほぼ同どう数すうであった。したがって，ニーファイ人じんは自じ分ぶんたちの同胞はらからと血ちを流ながしてでも戦たたかわざるを得えなかった。

15 さて，レーマン人じんの軍ぐん隊たいがアンテオヌムの地ちに集あつまっていたので，見みよ，ニーファイ人じんの軍ぐん隊たいはジェルションの地ちで彼かれらと戦たたかいを交まじえる用よう意いをした。

16 ところで，ニーファイ人じんの指し揮き官かん，すなわちニーファイ人じんを率ひきいる司し令れい官かんに任にん命めいされた人ひと，この司し令れい官かんがニーファイ人じんの全ぜん軍ぐんの指し揮きを執とったが，その人ひとはモロナイという名なであった。

17 モロナイは一いっ切さいの指し揮きを執とり，軍ぐん政せいをつかさどった。彼かれがニーファイ人じんの軍ぐん隊たいを率ひきいる司し令れい官かんに任にん命めいされたのは，わずか二十五歳さいのときであった。

18 さて，彼かれはジェルションの地ちの境さかいでレーマン人じんと相あい対たいした。このとき，彼かれの民たみは剣つるぎと三み日か月づき刀とう，そのほかあらゆる武ぶ器きで武ぶ装そうしていた。

19 レーマン人じんの軍ぐん隊たいがニーファイの民たみを見みると，モロナイは胸むね当あてと腕うで盾たてと，頭とう部ぶを防ぼう御ぎょする防ぼう具ぐを彼かれの民たみに装そう備びさせていた。また，彼かれらは厚あつ手での衣ころもを着きていた。

20 ところが，ゼラヘムナの軍ぐん隊たいはそのようなものは着つけておらず，ただ剣つるぎと三み日か月づき刀とう，弓ゆみと矢や，石いしと石いし投なげを携たずさえているだけであった。また，腰こしに皮かわをまとっているほかは裸はだかであった。ゾーラム人じんとアマレカイ人じん以い外がい，全ぜん員いんが裸はだかであった。

21 そのように，彼かれらは胸むね当あてや盾たてで武ぶ装そうしていなかったので，ニーファイ人じんより人にん数ずうが多おおかったにもかかわらず，ニーファイ人じんの軍ぐん隊たいの武ぶ具ぐを見みてひどく恐おそれた。

22 見みよ，そこで彼かれらは，ジェルションの地ちの境さかいであえてニーファイ人じんを攻せめようとせず，アンテオヌムを去さって荒あれ野のへ向むかった。そして，はるかシドン川がわの源みなもとの近ちかくを，荒あれ野のの中なかを遠とお回まわりして進すすみ，マンタイの地ちに入はいってその地ちを占せん領りょうしようとした。彼かれらは自じ分ぶんたちがどこへ行いったかモロナイの軍ぐん隊たいには分わからないであろうと思おもったからである。

23 しかし，彼かれらが荒あれ野のに向むかって出しゅっ発ぱつするとすぐに，モロナイは数すう人にんの密みっ偵ていを荒あれ野のに送おくり込こんで，彼かれらの陣じん営えいをうかがわせた。モロナイはまた，アルマの数かず々かずの預よ言げんのことを知しっていたので，ある人ひと々びとをアルマのもとに遣つかわし，レーマン人じんを防ふせぐためにニーファイ人じんの軍ぐん隊たいはどこへ行いけばよいか，主しゅに尋たずねてほしいと願ねがった。

24 そこで，主しゅの言こと葉ばがアルマに下くだった。そして，アルマはモロナイの使し者しゃたちに，レーマン人じんの軍ぐん隊たいは荒あれ野のの中なかを遠とお回まわりして進すすんでおり，彼かれらはマンタイの地ちへ行いって民たみの弱よわい部ぶ分ぶんに攻こう撃げきを仕し掛かけようとしていると告つげた。そこで，使し者しゃたちは帰かえって，モロナイにその伝でん言ごんを伝つたえた。

25 そこでモロナイは，軍ぐん隊たいの一いち部ぶをジェルションの地ちに残のこして，レーマン人じんの一いち部ぶがその地ちにやって来きて町まちを占せん領りょうすることのないように備そなえておき，軍ぐん隊たいの残のこりを率ひきいてマンタイの地ちへ進しん軍ぐんした。

26 そしてモロナイは，その地ちのすべての人ひとを集あつめ，レーマン人じんと戦たたかって彼かれらの土と地ちと国くに，権けん利りと自じ由ゆうを守まもらせるようにした。このようにして彼かれらは，レーマン人じんの来らい襲しゅうに備そなえたのである。

27 さて，モロナイは，シドン川がわの岸きしに近ちかい谷たにに自じ分ぶんの軍ぐん隊たいを隠かくした。そこはシドン川がわの西せい方ほうの荒あれ野のの中なかであった。

28 またモロナイは，方ほう々ぼうに密みっ偵ていを配はい置ちし，レーマン人じんの軍ぐん隊たいが来きたときにそれが分わかるようにした。

29 モロナイはレーマン人じんの目もく的てきを知しっていた。彼かれらの目もく的てきは，自じ分ぶんたちの同胞はらからを滅ほろぼすか，そうでなければ同胞はらからを服ふく従じゅうさせて奴ど隷れいにし，全ぜん地ちに彼かれら自じ身しんのための王おう国こくを築きずくことであった。

30 またモロナイは，ニーファイ人じんのただ一つの望のぞみが自じ分ぶんたちの土と地ちと自じ由ゆうと教きょう会かいを守まもることであるのを知しっていたので，計けい略りゃくを用もちいてニーファイ人じんを守まもることは少すこしも罪つみではないと思おもった。そこで彼かれは何なん人にんもの密みっ偵ていを使つかって，レーマン人じんがどの進しん路ろを取とろうとしているかを探さぐった。

31 その結けっ果か，彼かれは自じ分ぶんの軍ぐん隊たいを分わけて，一いち部ぶを川かわを渡わたらせて谷たにに入いれ，東とう方ほうに，すなわちリプラの丘おかの南なん方ぽうに彼かれらを隠かくした。

32 また，残のこりの兵へいをシドン川がわの西せい方ほうの西にしの谷たにに，マンタイの地ちの境さかいに至いたるまで隠かくした。

33 このように彼かれは，自じ分ぶんの望のぞむままに軍ぐん隊たいを配はい置ちし，レーマン人じんと戦たたかいを交まじえる用よう意いをした。

34 そして，レーマン人じんはモロナイの軍ぐん隊たいの一いち部ぶが隠かくれている丘おかの北ほっ方ぽうを上のぼって来きた。

35 そして彼かれらは，リプラの丘おかを過すぎて谷たにに入はいり，シドン川がわを渡わたり始はじめた。そこで，丘おかの南なん方ぽうに隠かくれていて，リーハイという名なの人ひとに率ひきいられていた軍ぐん隊たいが，彼かれの指し揮きの下もとに東とう方ほうからレーマン人じんの背はい後ごを包ほう囲いした。

36 そこでレーマン人じんは，ニーファイ人じんが背はい後ごから攻せめて来くるのを見みて，向むきを変かえてリーハイの軍ぐん隊たいと戦たたかい始はじめた。

37 そして，双そう方ほうともに死し者しゃが出で始はじめたが，死し者しゃはレーマン人じんの方ほうがはるかに多おおかった。レーマン人じんはニーファイ人じんの剣つるぎと三み日か月づき刀とうによる激はげしい攻こう撃げきにその裸はだかの体からだをさらしており，ほとんど一ひと太た刀ちごとに死しんだからである。

38 一いっ方ぽう，ニーファイ人じんは体からだの特とくに大たい切せつな部ぶ分ぶんが保ほ護ごされていたので，すなわち，体からだの特とくに大たい切せつな部ぶ分ぶんが胸むね当あてと腕うで盾たてとかぶとでレーマン人じんの攻こう撃げきから保ほ護ごされていたので，レーマン人じんの剣つるぎに触ふれ，血ちを失うしなったことにより倒たおれる者ものが時とき折おりいたくらいであった。このようにニーファイ人じんはレーマン人じんを殺ころし続つづけた。

39 そこでレーマン人じんは，味み方かたが大おお勢ぜい殺ころされたことでおびえ，とうとうシドン川がわの方ほうへ逃にげ始はじめた。

40 そして彼かれらは，リーハイと彼かれの兵へいたちに追つい撃げきされ，リーハイによってシドンの水みずの中なかに追おい込こまれて，シドンの水みずを渡わたった。しかしリーハイは，軍ぐん隊たいをシドン川がわの岸きしにとどめ，彼かれらには川かわを渡わたらせなかった。

41 そして，モロナイと彼かれの軍ぐん隊たいがシドン川がわの対たい岸がんの谷たにでレーマン人じんを迎むかえ，攻せめかかって彼かれらを殺ころし始はじめた。

42 そこでレーマン人じんは，再ふたたび彼かれらの前まえから逃にげ出だし，マンタイの地ちへ向むかった。ところが，またしてもモロナイの軍ぐん隊たいに出で会あってしまった。

43 するとこの度たびは，レーマン人じんも激はげしく戦たたかった。レーマン人じんはいまだかつて知しられていないほど，すなわち，両りょう者しゃの戦せん争そうが始はじまって以い来らい一いち度どもなかったほど，非ひ常じょうに大おおきな力ちからと勇ゆう気きを奮ふるって戦たたかった。

44 彼かれらは自じ分ぶんたちの連れん隊たい長ちょうであり指し揮き官かんであるゾーラム人じんとアマレカイ人じん，および総そう隊たい長ちょうすなわち総そう指し揮き官かんであり総そう司し令れい官かんであるゼラヘムナに励はげまされた。まことに，彼かれらは龍りゅうのように戦たたかい，多おおくのニーファイ人じんが彼かれらの手てによって殺ころされた。まことに，彼かれらはニーファイ人じんのかぶとをたくさん打うち割わり，ニーファイ人じんの胸むね当あてをたくさん刺さし貫つらぬき，ニーファイ人じんの腕うでをたくさん切きり落おとした。このようにレーマン人じんは激はげしく怒いかって打うちかかった。

45 しかし，ニーファイ人じんはもっと良よい動どう機きに励はげまされていた。彼かれらは君くん主しゅ制せいのために戦たたかったのではなく，権けん力りょくのためでもなく，自じ分ぶんたちの家いえと自じ由ゆうと，妻さい子しと，自じ分ぶんたちのすべてのもののために，特とくに礼れい拝はいの儀ぎ式しきと教きょう会かいのために戦たたかっていた。

46 彼かれらは，神かみに義ぎ務むを負おっていると感かんじていたことを行おこなっていたのである。主しゅは彼かれらに，また彼かれらの先せん祖ぞに，「あなたがたは最さい初しょの攻こう撃げきについても，二度ど目めの攻こう撃げきについても，罪つみを犯おかしていないかぎり，敵てきの手てによって殺ころされるに任まかせてはならない」と言いわれたからである。

47 主しゅはまた，「あなたがたは血ちを流ながしてでも自じ分ぶんたちの家か族ぞくを守まもりなさい」とも言いわれた。したがって，ニーファイ人じんは自じ分ぶん自じ身しんと家か族ぞく，土と地ち，国くに，権けん利り，宗しゅう教きょうを守まもるためにレーマン人じんと戦たたかっていたのである。

48 さて，モロナイの兵へいたちは，レーマン人じんの勇ゆう猛もうぶりと怒いかりを見みると，恐おそれをなして逃にげ出だそうとした。しかしモロナイは，兵へいたちの思おもいを見み抜ぬくと，使し者しゃを出だし，次つぎのこと，すなわち自じ分ぶんたちの土と地ちと自じ由ゆうのこと，まことに奴ど隷れいの状じょう態たいに陥おちいるのを免まぬがれることを思おもい出ださせて，彼かれらの心こころを奮ふるい立たたせた。

49 そこで彼かれらは，レーマン人じんの方ほうに向むき直なおり，声こえを合あわせて主しゅなる神かみに，自じ由ゆうを保たもち，奴ど隷れいの状じょう態たいに陥おちいるのを免まぬがれることができるように叫さけび求もとめた。

50 そして彼かれらは，力ちからを得えてレーマン人じんに立たち向むかった。すると，彼かれらが主しゅに自じ由ゆうを叫さけび求もとめると同どう時じにレーマン人じんは彼かれらの前まえから逃にげ始はじめ，シドンの水みず際ぎわまで退しりぞいた。

51 レーマン人じんはニーファイ人じんよりも多おおく，まことに倍ばい以い上じょうの人にん数ずうであったにもかかわらず，彼かれらは追おいやられて，その谷たにでシドン川がわの岸きしに一いち団だんとなって集あつまった。

52 そこで，モロナイの軍ぐん隊たいは彼かれらを包ほう囲いした。すなわち，川かわの両りょう側がわから包ほう囲いする形かたちになった。見みよ，東ひがし側がわにはリーハイの兵へいたちがいたからである。

53 ゼラヘムナはシドン川がわの東ひがしにいるリーハイの兵へいとシドン川がわの西にしにいるモロナイの軍ぐん隊たいを見みて，自じ分ぶんたちがニーファイ人じんに包ほう囲いされているのを知しり，彼かれらは恐おそれおののいた。

54 モロナイは彼かれらが恐おそれているのを見みて，血ちを流ながすのをやめるように兵へいに命めいじた。