1 さて,ニーファイの民のさばきつかさの統治第二十五年の初めには,彼らはリーハイの民とモリアントンの民との間に彼らの土地のことについて和解を確立しており,第二十五年が平穏に始まった。
2 しかし,国内の完全な平和は長くは続かなかった。大さばきつかさのパホーランについて民の中に争いが起こったのである。というのは,見よ,法律の条項を少し変えてほしいと望んだ者たちが民の中にいたからである。
3 しかし見よ,パホーランは法律を変えることを望まず,また法律が変えられるのを認めようとも思わなかった。そのため,法律の変更について請願の形で意見を表明した者たちの言うことにも,彼は耳を傾けなかった。
4 そのため,法律が変更されることを願った者たちは彼に腹を立て,彼が引き続き国の大さばきつかさであるのを望まなかった。その結果,その件について激しい論争が起こったが,血を流すには至らなかった。
5 さて,パホーランをさばきつかさの職から退けることを願った者たちは,王政党と呼ばれた。彼らは法律を変更して自由政体を廃し,国を治める王を立てることを願ったからである。
6 また,パホーランが引き続き国を治める大さばきつかさでいることを願った人々は,自ら自由党と称した。このようにして,民の中に分裂が生じた。自由党の人々は,自由政体によって自分たちの権利と宗教の特権を守ることを誓った,すなわち聖約したからである。
7 さて,両者の争いに関するこの件は,民の声により解決された。そして,民の声により自由党が支持を受け,パホーランはさばきつかさの職を保った。これはパホーランの同胞と自由を願う多くの人に大きな喜びを与えた。また,このようにして彼らは王政党の者たちを沈黙させたので,王政党の者たちはあえて反対せず,仕方なしに自由の大義を守ることになった。
8 王を立てることを支持した者たちは上流の生まれの者であり,自分が王になろうとしていた。そして彼らは,民を治める権力と権能を得ようとした者たちから支持を受けた。
9 しかし見よ,このような争いがニーファイの民の中にあったこのときは,危機であった。見よ,アマリキヤが再びレーマン人の民の心をあおって,ニーファイ人の民に対して反感を抱かせていたからである。そして彼は,自分の国の全地方から兵を集め,彼らを武装させ,着々と戦争の準備をしていた。彼はモロナイの血を飲むと誓っていたからである。
10 しかし見よ,後に分かるように,彼が立てた約束は無分別なものであった。それでも,彼はニーファイ人を攻めるために,自分自身と自分の軍隊を備えていた。
11 彼の軍隊はすでにニーファイ人の手によって何千人も殺されていたので,その人数は以前ほど多くなかった。しかし,多大の損害を被っていたにもかかわらず,アマリキヤは驚くほどの大軍を集めたので,ゼラヘムラの地へ向かうことを恐れなかった。
12 まことに,アマリキヤ自身がレーマン人を率いて下って来た。それはさばきつかさの統治第二十五年のことであり,大さばきつかさパホーランに関する争いの問題が収まり始めたちょうどそのときであった。
13 さて,王政党と呼ばれた人々は,レーマン人がニーファイ人と戦うために進んで来ていると聞いて内心喜んだ。そして彼らは,武器を取ることを拒んだ。彼らは大さばきつかさと自由を願う人々のことをひどく怒っていたので,武器を取って国を守る気持ちがなかったからである。
14 さて,モロナイはこのことを知り,さらにレーマン人が国境を越えているのを知ると,自分がこれまでそれらの人々を守るために精いっぱい努めてきたにもかかわらず,彼らがかたくなであるのを非常に怒った。彼は激怒し,彼の心は彼らに対する怒りでいっぱいになった。
15 そして彼は,民の声を受けて,国の総督に請願書を送ってそれを読むように求め,自分たちの国を守るようにそれらの離反者たちに強要する力と,また従わなければ彼らを処刑する力を自分(モロナイ)に与えてほしいと願った。
16 彼が第一になすべきことは,民の中にこのような争いと不和をなくすことであった。というのは,見よ,民の中の争いと対立がこれまで彼らの被ったすべての滅亡の原因となってきたからである。そしてそれは,民の声に応じて聞き届けられた。
17 そこでモロナイは,自分の軍隊に,それら王政党の者たちと戦って彼らの高慢と特権意識を打ち倒し,彼らを地に倒すように,そうでなければ彼らに武器を取って自由の大義を守らせるように命じた。
18 そこで,軍隊が彼らに向かって進軍し,彼らの高慢と特権意識を打ち倒した。彼らの中で武器を振り上げてモロナイの兵に立ち向かう者は,切られて地に倒された。
19 そして,離反者たちの中の四千人が剣で切り倒された。また,戦いで殺されなかった彼らの指導者たちは,捕らえられて,すぐに審理する暇がなかったので牢に入れられた。
20 また,残りの離反者たちは,剣によって地に打ち倒されるよりも自由の旗に従うことを選んだ。そして,仕方なく自分たちのやぐらと自分たちの町に自由の旗を掲げ,また国を守るために武器を取った。
21 このようにして,モロナイは王政党の者たちを滅ぼし,王政党という名で知られる者はだれ一人いなくなった。また,このようにして彼は,高貴な血統の出であると主張した者たちの強情と高慢をくじいた。そして彼らは,同胞のように謙遜になり,奴隷とならないために勇敢に戦うようになった。
22 さて見よ,モロナイがこのように自分の民の中の戦いと争いを鎮め,民の中に平和と秩序を確立し,レーマン人と戦う準備をするための規則を定めている間に,見よ,レーマン人は海岸に近い地方にあるモロナイの地に入って来た。
23 そして,モロナイの町にいたニーファイ人は耐えられるほど強くなかったので,アマリキヤは彼らを追い出し,多くの者を殺した。そして,アマリキヤはその町を占領し,まことにすべてのとりでを占領した。
24 そこで,モロナイの町から逃げ出した人々は,ニーファイハの町へ行った。また,リーハイの町の民も集まって準備を整え,レーマン人を迎え撃つ用意をした。
25 しかし,アマリキヤはレーマン人にニーファイハの町を攻めさせようとしないで,海岸近くに彼らをとどめ,それぞれの町にそこを守る兵を置いた。
26 このようにして,彼は進軍を続けて,ニーファイハの町,リーハイの町,モリアントンの町,オムナーの町,ギドの町,ミュレクの町などの多くの町を占領した。これらの町はすべて海岸に近い東の国境地方にあった。
27 このように,レーマン人はアマリキヤの悪知恵と無数の軍勢によって非常に多くの町を手に入れた。しかも,これらの町はどれも皆モロナイのとりでの築き方に倣って強固に防備が固められており,レーマン人はこれらをすべて自分たちのとりでとした。
28 そして,彼らは行く手のニーファイ人を追い払い,また多くの者を殺しながら,バウンティフルの地に進軍した。
29 ところが,彼らはテアンクムと相対することになった。このテアンクムはかつてモリアントンが逃走しようとしたときに彼を殺し,彼の民の前に立ちはだかった人である。
30 そして,このテアンクムがここでまたアマリキヤの前に立ちはだかったのである。このときアマリキヤは,バウンティフルの地とその北方の地を占領しようとして,大軍を率いて進んでいた。
31 しかし見よ,テアンクムとその兵が偉大な戦士であったために,アマリキヤは彼らに撃退されて望みを遂げることができなかった。テアンクムの兵は一人残らず体力の面で,また戦いの技術の面でレーマン人をしのいでいたので,彼らはレーマン人よりも優位に立った。
32 そして,テアンクムとその兵はレーマン人を休みなく攻め,暗くなるまで彼らを殺した。それから,テアンクムとその兵はバウンティフルの地の境で天幕を張った。また,アマリキヤも海岸に近い境の地で天幕を張った。彼らはここまで追われたのである。
33 さて,夜になると,テアンクムとその部下は夜に紛れてひそかに出て行き,アマリキヤの宿営に忍び込んだ。すると見よ,レーマン人は,日中の戦いと暑さのためにひどく疲れて眠り込んでいた。
34 そこでテアンクムは王の天幕に忍び込み,投げ槍を王の心臓に突き立てて王を即死させたので,王は僕たちを起こすことができなかった。
35 それから,テアンクムがひそかに自分の宿営に帰ると,見よ,兵は眠っていた。そこで彼は兵を起こして,自分が行ってきたことをすべて告げた。
36 また彼は,レーマン人が目を覚まして攻め寄せて来るのではないかと案じ,軍隊に準備をして待ち受けさせた。
37 このようにして,ニーファイの民のさばきつかさの統治第二十五年が終わり,またアマリキヤの生涯も終わるのである。