第6課
ホームティーチング
目的
ホームティーチャーとしての召しを理解し,果たす。
導入
教師,祭司,それにメルキゼデク神権者は,ホームティーチャーとして働くように召される。わたしたちが尊んで大いなるものとする神権の召しには,教会員を教え,見守り,支えることが含まれている。ホームティーチングは,その機会を提供するものである。
視覚資料6-a「ホームティーチャーは定員会の指導者により召される」を見せる。
ボイド・K・パッカー長老は,次のように述べている。「教会でどんな責任を受けているかと聞かれて,『ただのホームティーチャーです』と答える人がいる。」それからパッカー長老は,ホームティーチングが教会において最も重要な神権の割り当ての一つであると説明している。ホームティーチャーは,群れを見守る守護者であり,最も大切な責任に召されている。彼らは主の
ホームティーチャー:主の僕
ホームティーチングの大切さについて,アール・ストーウェル兄弟は次のように語っている。彼とホームティーチングの同僚は,あまり活発でない家族を何軒か受け持っていた。以下はストーウェル兄弟の話である。
「数日後に……わたしたちはある人の家のドアの前に立っていた。わたしは背が低いので,いつも相手の顔を見上げなければならない。しかし,ドアが開いたとき,わたしは見下ろす格好になった。そこに身長が150センチにも満たない老人が立っていたからである。」
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視覚資料6-b「リトル・ベン」を見せる。
彼はやせて〔年を取って〕いたが,まっすぐな姿勢ときびきびした物腰には,腰が曲がらないように一生懸命に努力していることがうかがわれた。小さく鋭い目の間隔は広く,口は耳に達するかと思われるほど横に大きく割れていた。また,肌はなめし皮のようにザラザラしていた。
わたしたちは,自分たちが近所に住む教会員で,知り合いになりたくて訪ねたことを告げた。彼は迷惑そうな表情をしながら,灰皿の備えてある狭い居間へ招き入れた。……彼がトラックを運転していると言ったとき,わたしは集配用の小型トラックを思い浮かべた。ところが,それが大型ダンプカーだと知って,驚いてしまった。
『ダンプカーの運転手といえば,大柄でたくましい人が多いと思いますが,あなたはどのように……。』
彼はわたしの言葉を遮って言った。
『運転席に30センチの大型レンチを置いておけばいいのさ。連中もそのことを知っているから,対等に付き合えるわけだ。』……
数か月もすると,わたしたちはベンを訪問する日を楽しみに待つようになった。〔ある日の夕方訪問してみると,彼は仕事から帰っていたが疲れ切っていた。〕そこで2,3分で辞することにした。玄関に向かおうとすると,ベンはわたしたちを見上げて言った。『おまえさんがたはわたしに言いたいことがあるんじゃないのかね。たばこをやめて,神権会と教会に行って,そのほかいろいろとやるようにね。』
『ベン,もしあなたがそうしてくれたら,どんなにうれしいでしょう。でも,それはあなたが決めることです。あなたはもう知っているのですから,わたしたちが行うように言えば,それはあなたを侮辱することになります。わたしたちがあなたに会いに来るのは,それは,あなたなしにはわたしたちの家族が完全にならないからです。』ベンはわたしの手をしっかりと握った。……
週末にベンから電話がかかってきた。『神権会は何時からだったかな。』わたしは,車で迎えに行くことを申し出た。
すると彼は言った。『いや,道は知っているから,それには及ばんよ。』
ベンは教会の外に立っていた。『たばこをやめるまでは,教会の中に入らん方がいいと思ってな。』わたしは,主の助けがあれば楽にやめられると言った。『8歳から吸っているんだ。とてもやめられるとは思えん。』わたしは,必ずできると思うと言った。
やがて彼は『リトル・ベン』という愛称で呼ばれるようになった。学校教育,体格,年齢など,多くのハンデイはあったが,彼はすぐに親しい友人を作り,長老定員会が企画するほとんどのプロジェクトに参画した。
ある晩,彼から電話がかかってきた。『何てことなんだ。』今にもヒステリーを起こしそうな声だった。『ワードティーチャーになれと言うんだ。できるわけがない。たばこは吸っているし,教会について何も知らん。知らないことをどうやって教えるんだ。……一体,どうすればいいんだ。』
わたしも動揺していた。リトル・ベンは特別な存在であり,二度と失ってはならない存在である。心の中で,わたしは懸命に祈った。そして,深く息を吸うと話し始めた。『ベン,わたしたちがあなたに何かさせようとしたことがありますか。』
『いや,君たちはわたしが大切な存在であることを態度で示してくれた。そして,わたしもそう思うようになっていった。だからこそ,自分から教会に行く気になったんだ。』
『あなたと会ったときに,わたしたちはあなたのために何かができると思いました。ベン,あなたは担当する人々を訪問して,彼らがいかに大切な存在であるか伝えることができませんか。時々一緒に過ごしたくなるほど大切な人であると言ってあげられませんか。自分にとって価値あるものを相手の中に見いだして,それについて喜んで話し合いたいとは思いませんか。』
しばらくの間沈黙が続いた。そして彼は言った。『分かった,やってみよう。』
一日の仕事が終わると,わたしはよくベンの
次に彼と会ったときに,わたしはそのことについて尋ねてみた。彼はうつむいて言った。『家に帰る途中,マーケットの前を通ったら,あの子たちの顔が浮かんできたんだ。父親が失業中でな……。今年はすいかが不作でとても高い。あの子たちは一度もすいかなど食べていない。だから,好きなだけ食べさせてやりたい。そう思って,店でいちばん大きなすいかを買ってしまった。』
それから数日して,夕方の暑い中を意気揚々と歩いて行く彼の姿を見かけた。手には大きなバースデーカードを持っていた。彼は後に次のように説明してくれた。『この小さな女の子は男の兄弟ばかりで,だれにもかまってもらえないんだ。だから,カードを送らずに直接持って行ったら,あの子は自分が大切な人だと考えると思ってな。ほんの2,3週間前のことだったが,子供たちがふざけて人形の腕をもぎ取ってしまった。だが,あの女の子以外,だれも気にも留めなかった。わたしはその人形を家に持って帰り,タンスから古いホックとスプリングを取り出して,人形の腕をくっつけた。完全に治ったが,そのために一晩中かかってしまった。しかし,それだけのかいはあった。人形を持って行って渡してやると,その子はわたしの目の前の床に座り,ずっとわたしにもたれかかっていた。』わたしはペンの声が震えているのに気づいた。
それから数日後に,すばらしい電話を受けた。『担当家族の女の子がバプテスマを受けるんだ!』ベンの〔ホームティーチング〕が実を結んだのである。わたしも思わず歓声を上げた。……
それまでの5年間,これらの家族は,ワードティーチャーと時々訪れる〔扶助協会の〕訪問教師を除けば,教会とはまったく接触がなかった。ところが,それから3年の間に,わたしは8回もリトル・ベンから電話を受けた。いずれも興奮した口調で,その家族のバプテスマや子供の神権昇進を知らせるものであった。わたしは,どのようにして彼らの生活に溶け込むことができたのか尋ねてみた。『君が教えてくれたことをしただけさ。わたしはあの家族よりも優れた人間ではないし,何かをさせようとして訪問するわけでもない。そのことが分かってもらえたんだ。主がその家族のために霊的な食卓を用意されたので,わたしは出かけていった。わたしたちがいなければ,その食卓に空席ができて,家族は完全になれないからね。』
ワードティーチングからホームティーチングに移行しても,わたしたちのすることはただリトル・ベンの功績を模範にすることだけである。」(“Little Ben,” Ensign,1977年3月号,66—68)
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リトル・ベンのホームティーチャーが成功した
鍵 は何だろうか。ホームティーチャーとして働くときに,リトル・ベンはこの鍵をどのように使っただろうか。
ホームティーチャーの責任
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視覚資料6-c「ホームティーチャーは家族を訪問するために召される」を見せる。
ホームティーチャーの責任は,会員の家庭を訪れて,彼らが祈り,家庭での義務を果たすように勧めることである。これは主から与えられた責任である。ホームティーチャーは,主の子供たちを助け守護する「見守る者」として召されている(エレミヤ31:6;エゼキエル33:1-9参照)。
ハロルド・B・リー大管長の言葉によれば,ホームティーチャーが心に銘記すべき使命とは,各会員が自身の義務を果たせるように助け,励まし,見守ることである。リー大管長は神権指導者に対して,レッスンを教えるホームティーチャーではなく,教会員を守護し家庭を「見守る者」としてのホームティーチャーに重点を置くよう勧告した。この意味を十分に理解してホームティーチングを行えば,そこから多くの成果が得られるであろう(See regional representatives’ seminar,1972年4月,8)。
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教会員を「見守る者」とはどういう意味だろうか。担当家族を教えようとする前に,彼らに対して抱いている関心を伝えることが大切なのはなぜだろうか(リトル・ベンの話を参照する)。
ホームティーチャーは,担当する家族や個人にとって監督または支部長の代理である。したがって,訪問の状況や担当家族が必要とする事柄について,神権個人面接の際に神権指導者に定期的に報告しなければならない。もちろん担当家族に病気そのほかの問題が発生した場合は,面接を待つことなく直ちに神権指導者に報告する。
家庭におけるホームティーチャーの必要性
ホームティーチャーは,担当家族が必要とすることに常に心を配る。彼らの個人として,また家族としての必要を見極め,いたずらに訪問を重ねるのでなく,家族の成長を促すために訪問するのである。一人一人を愛し,進んで援助の手を差し伸べ,勇気とカとを必要とする人々を助けるのである。
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ほとんどの家族が必要とするものを生徒に挙げてもらい,それを黒板に書く。レッスン中にほかの提案があれば,黒板に書き加える。
教会のすべての家族は,天の御父の
病気のときの援助も,すべての家族が必要とするものである。病気のときには「教会の長老を招」くように,主は勧告しておられる。したがって,ホームティーチャーは担当家族の病気に心を配り,求められればいつでも儀式を行えるように自らをふさわしく備えるべきである(ヤコブの手紙5:14-15参照)。
人はだれでも生活の中で個人的なチャレンジや家族全体の問題に直面し,時には落胆することがある。ホームティーチャーは,祈りを通して担当する個人と家族の必要を見極め,両親や子供,独身会員を助け,励ますために,できる限りの方法を探し求める。単に援助を申し出るだけでは不十分である。
家族にとっても個人にとってもホームティーチャーは必要である。そのことに気づかない人がいるかもしれないが,確かにホームティーチャーは必要とされている。担当する家族や個人を助けるために,その方法を求めて熱心に祈るならば,わたしたちは霊感を受けて彼らが必要としている祝福をもたらすことができるはずである。
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リトル・ベンは担当家族の必要をどのように満たしただろうか。
ある優れたホームティーチャーは,次のような方法で担当家族を援助した。
「ロバートソン兄弟姉妹は……教会に活発な若夫婦であるが,『まだ二人きり』だということで,家族の祈りも家庭のタベもしていなかった。わたしたちはそのことについてレッスンを行い,励ましたが,効果は上がっていなかった。……
それから2週間,同僚とわたしは何度か会って,担当家族に必要だと思われることについて話し合った。そして特別な注意がいると感じた事柄を幾つか確認した。そして,次の訪問ではこれまでと違う方法で話しかけてみることにした。ロバートソン兄弟姉妹には,『何か,お手伝いできることはありませんか』ではなく,『来週の木曜日,わたしの家で家庭のタベを一緒にしませんか』と誘った。……すると……『はい,お願いします』という返事であった。……
先日,
父親を助ける
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視覚資料6-d「ホームティーチャーは,家族を導く父親を支援する」を見せる。
イエス・キリストの教会が設立されたのは,個々の人だけでなく家族に救いをもたらすためであり,家長である父親には家族を昇栄へと導く主要な責任がある。効果的なホームティーチングを行うには,この原則を理解しなければならない。すなわち,ホームティーチャーは家族を完成へと導く父親,あるいは家長の立場にある人を支援するために召されているのである。
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家族を助ける方法を見いだす効果的な方法として,最初に父親または家長と個人的に会うことが考えられる。そして,家族が必要としていることや,その必要を満たすためにどのような援助ができるか尋ねる。
次の話は,ホームティーチャーが父親を通して働きかける方法を示している。
木下良治は教会員ではない。妻と子供たちが教会員であるため,木下家は補助組織やホームティーチングの訪問を受けることが多かった。この訪問は通常木下家の教会員を対象に行われていた。その結果,木下氏は訪問のときに席を外していた。……
2年前から,新しいホームティーチャーの松本兄弟が木下家を担当していた。松本兄弟は木下家の家族に会い,そして神権指導者と現状を話し合って,家長すなわち木下兄弟に注意を集中しなければと強く感じた。それから毎月,彼は慎重にこれを実行した。例えば,訪問の約束をするときは木下柿妹ではなく必ず木下兄弟に連絡した。……そしてこの訪問の際に,どうしたら家族の一人一人を助けることができるかという点について話すようにしていた。最初木下兄弟は,これまでのやり方と違うためしりごみしていたが,間もなく松本兄弟に感謝の気持ちを抱くようになった。心のこもった訪問が続けられた。けれども,直接的に福音に関する話をこの家族にすることはほとんどなかった。
ある晩のこと,松本兄弟は木下兄弟を個人的に訪れ,居間でこう尋ねた。『木下兄弟,家族の皆さんがこうして教会で活発にやっておられるのに,どうして教会に入ることをお考えにならないのですか。』松本兄弟は彼の答えを聞いて驚いた。『わたしに興味があるかどうか聞いた人は一人もいませんでした。実のところ,わたしはあなたがたの教会の書物をたくさん読み,あなたと同じように信じているのです。』
1か月後,木下良治はバプテスマを受けて教会に加入した。そして今ではもう,家族は神殿で結び固めを受けている。」(『あなたが立ち直ったときには,兄弟たちをカづけてやりなさい』メルキゼデク神権テキスト,1974年,224-225)
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一人のホームティーチャーに,ホームティーチングに関する証を述べてもらう。それから一人の父親に,家族が受けた効果的なホームティーチングについて証を述べてもらう。
まとめ
ホームティーチャーとして,わたしたちは教会員の家族に責任を負っている。それは定期的に担当家族を訪問し,福音を教え,義にかなった生活をするように励ます責任である。この召しを果たすには,家族一人一人に対する愛を養わなければならない。また,家族の必要を見極めてそれを満たすために,十分な祈りをもって家長とカを合わせることも大切である。
チャレンジ
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ホームティーチャーとして果たすべき責任について祈りの気持ちで考える。
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以下の分野において自分が行うことを決める。
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ホームティーチャーとしての働きを高める。
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同僚がより良いホームティーチャーになれるように助ける。
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担当家族の父親とカを合わせる。
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家族一人一人の必要を満たす。
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それぞれの家庭で,ホームティーチャーを助ける方法について話し合う。
『神権の義務と祝福A』第6課「教師の義務」から,預言者ジョセフ・スミスのホームティーチャーに関する話を読むとよい。
参照聖句
ヨハネ21:15-17(互いに教え合うようにという戒め)
エペソ5:23(夫は家庭の頭である)
2テモテ2:2(教えることのできる忠実な人々)
1ペテロ5:1-4(長老の責任)
教義と聖約46:27(ホームティーチャーに与えられる識別の賜物)
教義と聖約84:106(強き者は弱き者を教化する)
教師の準備
レッスンの前に以下のことを行う。
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教義と聖約20:46-47,51-55を研究する。
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まとめのところで以下のような証をするように依頼しておく。
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ホームティーチングについて証を述べるホームティーチャー1名。
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家族が受けた効果的なホームティーチングについて証を述べる父親1名。
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レッスンの中で話や聖句を読むよう生徒に依頼する。