2021年
薬物についての決断
2021年8月号


薬物についての決断

だれかに言うべきかな?アルビンはなやみました。

「正しかれ,……神は守る,ぎをなせ」(『賛美歌』151番)

kids sitting at desks in school

校庭にベルが鳴りひびきました。休み時間は終わりです。アルビンはバスケットボールをしまい,教室まで歩きました。

「席について算数の教科書を出してください」とホール先生が言いました。

アルビンは席にすべりこむと,学校かばんの中に手を入れました。そのとき,教室のドアをノックする音が聞こえました。ホール先生がドアを開け,ほかの先生と話を始めます。

いくつか向こうの席では,ブレークとジャレドがこそこそと話をし始めました。

おい,見ろよ,これ見つけたんだ!」

「うわっ!」

「放課後,やってみないか?」

いったい何があったのだろう,とアルビンは思いました。

横目でそっと見ると,ブレークとジャレドの様子が少しだけ見えます。どうやら一人が小さなビニールのふくろをポケットから引っぱり出しているようです。

待って,あれって薬物じゃない!?

アルビンの心臓の鼓動が速くなりました。両親が以前,アルビンやきょうだいたちに薬物について話してくれたことがあります。アルビンは,薬物は知恵の言葉に反していて,体やのうに害をおよぼすことがあると知っていました。そして,ほかの人の薬を飲むのはきけんだということも知っていました。

どうすればいいんだろう?アルビンは考えました。あたりを見回してみます。あの薬物は,だれかをきずつけるかもしれません!ほかの子たちは,だれも気がついていないようです。だれかに言うべきかな?それとも見なかったことにする?

算数の授業には集中できませんでした。読解の授業も耳に入りません。お昼休みになるころには,おなかの中に岩が入っているような気分になっていました。

「だいじょうぶ?」と友達のミッチが聞きました。

アルビンはかたをすくめました。

「いったいどうしたの?ぼくたちに話してよ」と,友達のヘイゼルが言いました。

そこでアルビンは,さっき見たことを話しました。「ホール先生に言うべきだと思うんだ。」

「だけど,アルビンが言ったってことが相手に分かったらどうする?」ミッチが言います。「アルビンにひどくはらを立てるんじゃないかな。」

アルビンもそう思いました。けれど,おなかの中のいやな感じは消えてくれません。ついにアルビンは決断しました。先生に言うことにしたのです。

「一緒に行くよ」とヘイゼルが言いました。

アルビンとヘイゼルは,教室にいるホール先生を見つけました。

「ホール先生?」アルビンがよびかけます。「ぼくたちだけで話せますか。」

「もちろんよ」とホール先生は言いました。「何かしら。」

「ええと……」とアルビンは言いました。ホール先生はやさしくほほえんでいます。それがアルビンに勇気をくれました。「ぼく,ブレークとジャレドが今日,教室で薬物を持っているところを見ました。これは先生に言わないといけないと思ったんです。」

「あなたは正しいことをしました」とホール先生は言いました。「何か問題を目にしたときには,いつでもわたしのところに話に来ていいんですよ。わたしがちゃんと対処しますからね。」

アルビンはほっと大きなため息をつきました。重たい気持ちは消えました。

その日の午後,校長先生の助手が教室にやって来て,ブレークとジャレドに廊下に出るように言いました。

二人はそれから3日間,教室にあらわれませんでした。

ようやくもどって来たとき,アルビンは二人と顔を合わせるのが不安でした。

もし先生に言ったのがぼくだって二人に知られたらどうしようと,アルビンは思いました。もしぼくにすごくはらを立てていたら?

けれども二人はただ席について冗談を言い合っていました。いつもどおりです。

「どうして来ていなかったの?」と別のクラスメートが聞きました。

「ああ,えーっと,学校でちょっと良くないものを持っているのが見つかっちゃってさ」とブレークが言いました。「それで家に帰されたんだ。」

だれもがおしゃべりを続けていたので,アルビンはようやくむねをなでおろしました。アルビンは,薬物について声を上げてほかの人たちの安全を守る助けができたことをうれしく思いました。アルビンは,自分の体を安全で健康にたもつために良い選択をしたいと思いました。

Friend Magazine, Global 2021/08 Aug

イラスト/マーク・ロビソン