ルーカスといじめ
ルーカスは自分は何て立派なことを言ったのだろうと思っていました。でも,ペドロの顔を見て,そうではなかったことに気づきました。
「親しく語り合わん いずこにありても」(『賛美歌』140番)
「あーあ。ペドロが来たよ!」
学校の全員がペドロがいじめっ子であることを知っていました。ペドロは身体も大きくて,意地悪でした。みんなの悪口を言ったり,お昼ご飯を取り上げたり,校庭でみんなを追いかけ回したりしました。だれもペドロの近くにはいたくありませんでした。
ペドロが,ルーカスと友達のアーサーのそばに来ました。ペドロは二人を「だめなやつ」とよんで,アーサーをおしました。
ペドロがあまりに意地悪なので,いやになったルーカスは,何も考えずに,「ペドロ,やめなよ!」とさけびました。
ルーカスは自分が信じられませんでした。学校でいちばん大きないじめっ子に立ち向かっていったのですから。
ペドロはすごいいきおいでルーカスの所に来ると,ルーカスのシャツをつかみました。「おまえ,今何て言った?」ルーカスのドキドキが速くなり,心臓が口から飛び出すかと思いました。「覚えてろ。今に見てろよ。」ペドロはルーカスをおして,行ってしまいました。
その後,ルーカスはなるべくペドロに会わないようにしましたが,いつもペドロに見つかってしまいました。ぶらんこからおろされたり,ドッジボールの間におされたり,食堂でつまずかされたり,いつも意地悪なことを言われたりしました。
ある日,ルーカスとアーサーがアーサーのサッカーボールで遊んでいたとき,ペドロが木の後ろから飛び出して来て,ボールを取ってしまったのです。
「返してよ」とアーサーが言っても,
「できるもんならやってみな。」ペドロはそう言って,ルーカスを木の中におしやって,笑いました。
ルーカスは胃がむかむかしてきました。すごくおこっていました。「いいか,ペドロ」とルーカスは言いました。「君は,ぼくが知ってる中で,いちばん意地悪だ。みんなからきらわれてるよ。えいきゅうにどっかに行っちゃえばいいのにって,みんな思ってるよ!」
ペドロは笑うのをやめました。ルーカスは自分は何て立派なことを言ったのだろうと思っていました。でも,ペドロの顔を見て,そうではなかったことに気づきました。泣きそうになっているではありませんか。ペドロはあわててうつ向いてそこから立ち去りました。
ルーカスはひどくいやな気持ちがしました。その日は一日中,どんなにがんばってもいやな気持ちからぬけ出せませんでした。その夜,ベッドの上でねがえりばかり打っていました。ペドロの顔が頭からはなれませんでした。
「ペドロが悲しむなんてありえないよ。」ルーカスは思いました。「自分はみんなに意地悪して,平気な顔してるのにさ。何か言ってやらなきゃ分からなかったんだから。」考えれば考えるほど,自分や友達のために立ち上がることは正しいことだったけれども,そんな意地悪を言ったことは間違いだったということを思い知らされました。
ルーカスはベッドのわきにひざまずくと,天のお父様に自分をゆるしてくださるようにいのりました。天のお父様に,もう決してだれかの気持ちをきずつけたくないと思っていることを話しました。やさしい人になりたいと思いました。ルーカスが「アーメン」と言ったとき,何をしなければいけないか分かりました。
次の日のお昼の後,ルーカスはペドロが一人でかべのところに立っているのを見つけました。ルーカスはきんちょうしました。ペドロはどうするでしょう。ルーカスは大きく息をすうと,ペドロのところに行きました。
「昨日はごめんよ。」
ペドロはおどろいた様子でした。「ごめんだって?」
「そうだよ。言っちゃいけない,意地悪なことを言ってごめんよ。」
ペドロは自分のくつを見つめながら言いました,「別にいいよ。」
授業の始まりのかねが鳴りました。ルーカスは教室に向かって歩き始めました。その後,ずっと良い気持ちを感じました。言いたいことがもう一つあったので,ふり返るとこう言いました。「もしよかったら,あしたの休み時間にサッカーしようよ。」
ペドロが少し笑顔を見せました。「いいね。」
それから,ペドロはずっと良くなりました。時々だれかをいじめることもありましたが,前ほど意地悪ではなくなりました。休み時間にルーカスと遊んだことも何度かあり,ほんとうに楽しい時間をすごしました。学年が終わるころになって,ペドロはルーカスに自分は引っこすことになったと言ってきました。そしてペドロの次の言葉を聞いて,ルーカスはとてもおどろきました。
「ぼくの友達でいてくれてありがとう。ぼくが意地悪なときもさ」とペドロが言ったのです。
ルーカスの心が温かくなりました。親切であることはいつだって正しい選びなのだと教えてくれました。