2021年
タクシーを1台だけ
2021年1月号


タクシーを1台だけ

このお話を書いた人はアメリカ合衆国ノースカロライナ州に住んでいます。

「どうかタクシーを1台だけ見つけられるようお助けください。わたしたちが今日,教会に行けるように」と女の子たちはいのりました。

「きょうかいにいくのはたのしいな」(『子供の歌集』142)

このお話は,スペイン,カンタブリア州での出来事です。

「今日はどうやって教会まで行くの?」エリーの妹のペッパがたずねました。「雨がすごいよ!」

「心配いらないよ」とエリーは言いました。「わたしたちは,勇敢だもん!」

エリーはペッパを手伝って,上着のボタンをとめてあげました。それから,自分の長ぐつをはきました。

エリーとペッパは,ママとパパと一緒に外に出ました。見たこともないほど雨がはげしくふっています。風がふいて,みんながさしているかさが裏返ってしまいました。エリーの勇敢な気持ちは,もうしぼんでいます。

「どうしたらいいの?」エリーは聞きました。あらしのような強い風で,バス停まで歩くのも大変そうです。

「今日はタクシーに乗ろう」とパパが言いました。

「それがいいわね」とママ。「それじゃあ行きましょう!」

みんなで,水があふれる道を歩いて行きます。タクシーも車も,1台も通りません。パナデリア(パン屋さん)さえしまっています。

ようやくタクシー乗り場が見えてきました。けれども,1番目の駐車スペースに,タクシーはいません。

「だめか。」パパが言いました。

エスタビエン。大丈夫だよ」とエリーは言いました。「1台くらいきっといるし,まだ見えないだけだよ。」

だんだんとタクシー乗り場が近づいてきます。2番目の駐車スペースも空っぽでした。

「どうしようか?」とパパが聞きます。

「いい考えがある」とエリーは言いました。「いのろうよ。」

エリーと妹は,小声でおいのりをしました。「ヌエストロ・パードレ・セレスティアル(天のお父様)。どうかタクシーを1台だけ見つけられるようお助けください。わたしたちが今日,教会に行けるように。正しいことを選ぼうとしているのですが,この雨のせいでむずかしいのです。エン・エル・ノンブレ・デ・ヘスクリスト,アーメン(イエス・キリストの御名により,アーメン)。」スペイン語はまだ学んでいる最中だったので,エリーは英語とスペイン語を交ぜておいのりをしました。

エリーたちは,もう少し先まで歩きました。3番目の駐車スペースも,やっぱり空っぽでした。

「引き返してうちに帰った方がいいかもしれないな。」パパが風に負けじと声をはり上げました。

「足がびしょぬれだわ!」とママが言いました。

「もう少し先まで行ってみようよ。」エリーは言いました。「タクシーが1台だけいればいいんだから。」

いよいよ最後の駐車スペースが見えてきました。

そこには,緑色のライトをつけたタクシーがいるではありませんか。

エリーとペッパはタクシーに飛び乗りました。ママが二人のかみを整えるのを手伝ってくれました。「シートをぬらしてしまって,すみません」と,パパがタクシーの運転手さんに言いました。

教会堂に着くと,エリーたちは友人たちとあいさつのベッソアブラッソ(キスとハグ)を交わしました。

「タクシーが見つかったなんて信じられないわ」とママは言いました。「ケ・スウェルテ!(運がよかったわ)」

「運じゃないよ」とエリーは言いました。「ペッパとわたしが,教会に行くのを助けてくださいって天のお父様にいのったの。天のお父様はそれを聞いてくださったのよ!」

イラスト/パトリシア・ゲイズ