姉妹ソロ
このお話を書いた人はアメリカ合衆国ユタ州に住んでいます。
「うたえぬ歌をも主はききたもう」(『賛美歌』139番)
すべての音を聞き取るのは簡単ではありません。ソフィーは勇気を出して歌えるでしょうか。
ソフィーは歌うのが大好きです。学校でも,友達の家でも,自分の家でも歌っています。中でもいちばんお気に入りの場所は教会でした。
「お母さん,」ある日,ソフィーは言いました。「もっと上手に歌えるようになりたいの。歌のレッスンを受けてもいい?」
「それは楽しそうね」と,お母さんが言いました。「まずはどんなレッスンがあるか,お母さんがさがしてみるわね。」
ソフィーにとって歌は,いつでも簡単に歌えるものというわけではありません。ソフィーは聴覚障害者で,自分ではほとんど音を聞くことができないのです。音を聞くのを助けてくれる,特別な小型の装置を耳の後ろにつけています。ソフィーには,音がほかの人とは少しちがって聞こえます。それでも,ソフィーはやっぱり歌うのが好きでした。
「いいニュースよ,ソフィー!」数日後,お母さんが言いました。「ソフィーが参加できる教室を見つけたの。子供たちの合唱団でね,みんなで一緒に歌を習うのよ。先生に聞いたら,あしたから始めてもいいって!」
ソフィーは思わずダンスのステップをふみました。楽しみでたまりません!
けれども夜になると,少し心配になってきました。
「あしたのレッスンが楽しみ?」お姉さんのケイラが聞きました。
ソフィーはうなずきました。「うん。だけど,なんだかちょっとこわくって。一人で行くんじゃなかったらいいのに。」
「ソフィーならできるよ!」ケイラは言いました。「だけど,心配ならわたしも行こうか?一緒に歌を習うのもいいよね。」
ソフィーはケイラにだきつきました。「そうしてくれたらすごくうれしい。」
次の朝,ソフィーとケイラは歌のレッスンへ行くために早起きしました。車に乗ろうとしたとき,いろいろな心配がソフィーの頭の中をかけめぐりました。もし先生の言うことが分からなかったらどうしよう。もし友達ができなかったらどうしよう。もしみんなにじろじろ見られたらどうしよう。
お母さんが車を駐車場に入れ,ソフィーの方をふり向きました。ソフィーは体をシートに深くしずめています。
「行きたいのかどうか,もう自分でもよく分からない」とソフィーは言いました。
「何があったの?」お母さんはたずねました。「あんなによろこんでいたのに。」
ソフィーは何も言いません。ただ下を向いて,足を前後にブラブラとさせています。
お母さんはにっこりとほほえみました。「行きたくなければ,行かなくてもいいのよ。だけど,もしきんちょうしたら,天のお父様にいのればいいわ。そうしたらきっと助けてくださるから!それに,ケイラも一緒にいるでしょ。」
ケイラがソフィーの手を取りました。「大丈夫だよ!」とケイラは言いました。
ソフィーはゴクリとつばを飲みました。きんちょうでおなかのあたりがムズムズしましたが,それでもなんとか車をおりました。ソフィーはケイラの手をぎゅっとにぎったまま,教室に入って行きました。
最初の何回かは,いつもケイラと一緒にすわりました。そしてある日,ソフィーはいつも一人ですわっている女の子がいることに気がつきました。もしかしたらあの子も不安なのかもしれない。ソフィーはその子のそばへ行き,となりにこしをかけました。
「こんにちは!」ソフィーは言いました。「ここにすわってもいい?」その子はうなずきました。じきに二人は,一緒に声を出して笑い,歌を歌っていました。勇気を出して新しい友達を作れたことを,ソフィーはうれしく思いました。
みんなと歌うのは最高でした!ソフィーは音を覚えて,歌の拍子に合わせて足をトントンと鳴らすのが大好きでした。そのうえソフィーは,ほかの子供たちに,歌詞をどうやって手話で表すのかを教えることもできました。
ある日,先生からすごいお知らせがありました。教室の全員が,特別プログラムでソロパートを3か所歌うというのです。ケイラとソフィーは,家でそれぞれのソロパートを一生懸命練習しました。じきにソフィーは,最初の二つのソロパートを歌えるようになりました。けれども,最後の一つがとてもむずかしいのです。すべての音を聞き取るのは簡単ではありませんでした。どうすればたくさんの人の前で,一人でこれを歌えるのでしょうか。
ソフィーは,天のお父様にいのって助けを求めなさいというお母さんの言葉を思い出しました。ソフィーはひざまずきました。「天のお父様,この最後の歌がわたしにはとてもむずかしいです。どうすれば歌えるか,そして,どうすればきんちょうしないかを,どうか教えてください。」
次のレッスンのとき,先生がソフィーのところへやって来ました。「3つ目のソロのことを心配しているようね。ケイラと一緒に歌うのはどうかしら?姉妹ソロというのもいいでしょう!」
ソフィーはにっこりと笑いました。温かくて幸せな気持ちを感じます。天のお父様がいのりにこたえてくださっているのだと分かりました。
本番で,ソフィーは最初の二つのソロを自信を持って歌いました。3つ目のソロが来たとき,ソフィーはピョンととびあがるように立ってケイラの手をつかみました。二人はステージに上がり,姉妹ソロを大きな声で,堂々と歌いました。きんちょうもこわさもまったく感じませんでした!天のお父様は思いがけない方法でソフィーのいのりにこたえてくださいました。天のお父様がいつも自分のいのりに耳をかたむけてくださることに,ソフィーは感謝の気持ちでいっぱいでした。