ともに仕える僕
これは,『聖徒たち—末日におけるイエス・キリスト教会の物語』という,4巻にわたる新しい教会歴史物語の第7章です。この物語は14の言語で,印刷物および「福音ライブラリー」アプリの「Church History(教会歴史)」の項,saints.lds.org/jpnで読むことができます。前の章は,これまでの号に掲載され,「福音ライブラリー」アプリとsaints.lds.orgにて,47の言語で読むことができます。
1829年の春は,5月半ばになっても肌寒い日が続きました。ハーモニー周辺の農夫たちが,天候が良くなるまで春の植え付けを遅らせて家にこもっている間,ジョセフとオリバーは記録をできるかぎり翻訳しようと努めていました。1
二人は,エルサレムでイエスが亡くなったときにニーファイ人とレーマン人に起きた出来事を語る箇所に差しかかりました。甚大な人的被害を与え,地形をも変えてしまうほどの巨大地震とすさまじい嵐が起こったと書かれています。地に沈んだ町もあれば,火に焼かれた町もあり,稲妻が数時間にわたって空の果てから果てへと走りました。太陽は姿を消し,生き残った人々は深い暗闇に覆われます。人々は亡くなった人々のために3日間,泣き叫びました。2
最後には,イエス・キリストの声が闇を貫きます。「わたしがあなたがたを癒すことができるように,今あなたがたはわたしに立ち返り,自分の罪を悔い改め,心を改めようとしているか。」3イエスは闇を払い,人々は悔い改めました。間もなく,多くの人々がバウンティフルと呼ばれる地にある神殿に集まります。集まった人々は,地に起こった驚くべき変化について話し合っていました。4
人々がこうして語り合っていると,神の御子が天から降って来られました。そして,こう言われたのです。「わたしはイエス・キリストであり,世に来ると預言者たちが証した者である。」5主はしばらくこの民のもとにとどまり,御自身の福音を教え,罪の赦しのために水に沈めるバプテスマを受けるよう民に命じられました。
「わたしを信じてバプテスマを受ける者は,だれでも救われる。神の王国を受け継ぐのはこれらの者である」と宣言されたのです。6天に昇られる前,主は御自身を信じる者にバプテスマを施す権能を義にかなった人々にお与えになりました。7
翻訳しながら,ジョセフとオリバーはこれらの教えに圧倒されます。兄のアルビンと同様,ジョセフはバプテスマを受けたことがなく,この儀式と,それを施すために必要な権能について,さらに知りたいと思いました。8
1829年5月15日の雨上がり,ジョセフとオリバーはサスケハナ川近くの森へと入って行きました。ひざまずき,バプテスマと罪の赦しについて神に尋ねたのです。祈っていると,贖い主の声が平安を告げ,光の雲の中に天使が現れました。この天使は,自分はバプテスマのヨハネであると告げ,二人の頭に手を置きました。神の愛に包まれ,二人の心は喜びに満たされます。
ヨハネは宣言しました。「わたしと同じ僕であるあなたがたに,メシヤの御名によって,わたしはアロンの神権を授ける。これは天使の働きの鍵と,悔い改めの福音の鍵と,罪の赦しのために水に沈めるバプテスマの鍵を持つ。」9
天使の声は穏やかでありながら,ジョセフとオリバーを心の底まで貫くようでした。10天使は,アロン神権にはバプテスマを施す権能があることを説明し,自分が去った後,互いにバプテスマを施すよう二人に命じました。また,後にもう一つの神権の力を受けるであろうことも告げます。その神権は,二人が互いに,また二人がバプテスマを施した人々に聖霊の賜物を授ける権能をもたらすものです。
その神権は,二人が互いに,また二人がバプテスマを施した人々に聖霊の賜物を授ける権能をもたらすものです。最初にジョセフがオリバーにバプテスマを施し,オリバーは水から引き上げられるやいなや,間もなく起こることについて預言し始めます。次に,オリバーがジョセフにバプテスマを施しました。ジョセフは川から上がると,主が確立されると約束された,キリストの教会の起こりについて預言しました。11
バプテスマのヨハネの指示に従い,二人は森に戻ると,互いをアロン神権に聖任します。ジョセフとオリバーは古代の記録の翻訳中だけでなく,聖書を研究する中で,神の御名によって行動する権能について記してあるのを度々目にしてきました。今やこの権能を,彼ら自身が持つようになったのです。
バプテスマを受けてからというもの,ジョセフとオリバーは,それまで難解で不明瞭に思えた聖句を突如として理解できるようになりました。真理と理解が二人の心に押し寄せてきたのです。12
ニューヨークでは,オリバーの友人であるデビッド・ホイットマーがジョセフの取り組む業について知りたがっていました。デビッドはマンチェスターから約50キロ離れたフェイエットに住んでいましたが,オリバーがスミス家に下宿しながら学校で教えていたころ,オリバーと友人になったのです。彼らは金版についてよく語り合い,オリバーはハーモニーに移ったら,翻訳について書き送ることをデビッドに約束していました。
程なくして,手紙が届くようになります。オリバーは,神からの啓示によらなければだれも知りえない彼の人生についての詳細を,ジョセフが知っていたことについて書きました。また,ジョセフに対する主の言葉と記録の翻訳についても書き記しました。ある手紙では,翻訳した文章を数行書き出し,それが紛れもない真実であることを証しています。
オリバーは別の手紙で,デビッドが自分の馬や馬車を率いてハーモニーにやって来て,ジョセフとエマ,オリバーがフェイエットのホイットマー家に移る手助けをするのは神の御心だと伝えました。ジョセフはそこで翻訳を完成させることができます。13ハーモニーの住民は,スミス家を歓迎しなくなってきていました。住民の中にはジョセフとオリバーの身を脅かそうとする者もおり,エマの実家の影響力がなければ深手を負うところでした。14
デビッドはオリバーから来た手紙を両親やきょうだいに見せており,彼らもジョセフとエマ,オリバーを家へ迎え入れることに賛成でした。ホイットマー家の人々はその地域にやってきたドイツ語圏の定住者の子孫で,その勤勉さと信心深さで知られていました。彼らの農場は,翻訳の業を妨げ,金版を盗もうとする人々からは十分離れた距離にあり,なおかつスミス家を無理なく訪問できるほどの場所でもありました。15
デビッドはすぐにでもハーモニーに行きたい気持ちでしたが,丸二日分の重労働を終えてからでなければ行ってはならないと,父親から釘を刺されていました。植え付けの時期でしたから,デビッドは8ヘクタールもの土地を耕し,麦の生育を促す石こうをまいて土壌を肥沃にしなければならなかったのです。どうしても今行かなければならないのかどうか,まずは祈りなさいと父は言いました。
父の助言に従って祈ったデビッドは,家の仕事を終えてからハーモニーに行くよう御霊が告げるのを感じました。
翌朝,デビッドが畑に歩いて行くと,前の晩には耕されていなかった土地に,黒々とした畝が何列もできているのが見えました。畑のほかの場所も調べてみると,2.5ヘクタールほどが一夜にして耕されており,最後の畝を耕せばよいだけになっていることが分かったのです。デビッドの仕事はほとんど終わっていました。
それを知ってひどく驚いたデビッドの父は,こう言います。「これは大きな力が働いているに違いない。畑に石こうをまいたらすぐにペンシルベニアに出かけるといい。」
デビッドは懸命に働いて残りの畑を耕し,植え付けた苗がよく育つように土を作りました。畑仕事が終わると幌馬車を屈強な馬に付け,予定よりも早くハーモニーへと向けて出発したのでした。16
ジョセフとエマ,そしてオリバーがいざフェイエットにやって来ると,デビッドの母親は手いっぱいになってしまいました。メアリー・ホイットマーと夫のピーター・ホイットマーには,すでに15歳から30歳の子供が8人おり,家を出た何人かの子供たちも近隣に住んでいました。子供たちの世話だけでも一日がかりだというのに,3人の客人を抱え,仕事は増す一方です。ジョセフの召しに対して信仰をもっていたメアリーは,愚痴こそこぼさなかったものの,次第に心身をすり減らせていきました。17
その年のフェイエットの夏は,うだるような暑さでした。メアリーが洗濯や食事の準備をする間,ジョセフは2階の部屋で翻訳を口述していました。通常はオリバーが書き取っていましたが,時にはエマやホイットマー家の人が書き取ることもありました。18時々,ジョセフとオリバーは神経を使う翻訳に疲れると,外に出て近くの池まで歩いて行き,水面に石を投げては何度も跳ねさせるのでした。
メアリーは息つく暇もなく,増えた仕事と課せられた負担は耐え難いものでした。
そんなある日のこと,メアリーが外に出て,牛の乳搾りをする小屋の傍らにいると,肩からナップサックを下げた白髪混じりの男性の姿が目に留まりました。突然の現れに恐れを抱いたものの,近づいて来たその男性が穏やかな声で話しかけると,メアリーは胸を撫で下ろします。
「わたしはモロナイです。」男性はそう名乗ると,こう言いました。「こなすべき仕事が増えて,あなたは非常に疲れてしまいましたね。」そして,ナップサックを肩から下ろすと,メアリーの目の前でそれを開き始めました。19
男性は話を続けます。「あなたは非常に忠実に,熱心に働いてこられました。ですから,あなたが証を得て信仰を強められるものをお見せしましょう。」20
ナップサックを開くと,モロナイは金版を取り出しました。ナップサックを開くと,モロナイは金版を取り出しました。最後のページまでめくり終えると,仕事は増えたけれども,もうしばらくの間忍耐強くあり,忠実にその仕事をこなすようメアリーに勧めました。そうすれば祝福を受けると約束したのです。21
年配の男性はその直後に姿を消し,メアリーは一人残されました。メアリーは相変わらず忙しく働かなければなりませんでしたが,悩まされることはもうなくなりました。22
ホイットマー家の農場で,ジョセフの翻訳は速いペースで進んでいきましたが,作業がはかどらない日もありました。ほかのことに気を取られ,霊的な事柄に集中できなかったのです23ホイットマー家の小さな家屋は常に慌ただしく,気を散らすことばかりでした。そこに移ったということは,ジョセフとエマがハーモニーで享受していた家族水入らずの時間を諦めることを意味していました。
ある朝のこと,翻訳に取りかかろうとしていたジョセフは,エマに対して腹を立てました。その後,二階で作業をしていたオリバーとデビッドの所へ行きますが,一言も翻訳することができないのです。
ジョセフは部屋から外に出ると,果樹園の方に歩いて行きました。1時間ほど外にいて祈り,帰ってくると,エマに謝って赦しを乞いました。それから,普段のように翻訳の作業に戻ったのです。24
今やジョセフはニーファイの小版として知られる記録の最後の部分を翻訳していました。実際には,書物の初めに用いられる部分です。この小版では,かつてマーティンと組んで翻訳したものの失われてしまった記録に刻まれていたのと類似した物語が展開し,ニーファイという名の若者の話が語られます。ニーファイの家族は神によって,エルサレムから新たな約束の地へと導かれたのです。そこでは記録を記し始めた経緯と,ニーファイ人とレーマン人の間の初期のあつれきが明らかにされていました。さらに重要なのは,版がイエス・キリストとその贖罪について力強く証していたことです。
ジョセフは最後の版の記述を翻訳したときに,その記録の目的が説明され,モルモン書という書名が与えられていることに気づきます。それは,この書物を編さんした預言者であり歴史家でもあった古代の人物の名を冠したものでした。25
モルモン書の翻訳を始めてからというもの,ジョセフは神の業において自分がこれから果たすこととなる役割について多くを学びました。その書物には,自分が聖書から学んだ基本的な教えだけでなく,イエス・キリストとその福音に関する新たな真理と洞察も記されていることが分かりました。また,「ヨセフ」という名の選ばれた聖見者について預言した,末日についての聖句も明らかになりました。その聖見者は主の言葉をもたらし,失われた知識と聖約を回復するのです。26
この記録の中で,学者には読めない封じられた書物に関するイザヤの預言について,ニーファイが詳しく綴っていることをジョセフは知りました。この預言を読んだジョセフは,マーティン・ハリスがアンソン教授と面会したときのことを思い起こしました。この記録は,末の日にこの書物を地からもたらし,キリストの教会を確立することのおできになる方は,神以外にはおられないと断言していたのです。27
主はこの版を3人の証人に見せられるという約束を,モルモン書と示現において与えておられました。翻訳が終わると,ジョセフと友人たちは,この約束について考えるようになります。そのころジョセフの両親とマーティン・ハリスはホイットマー家の農場を訪れており,ある朝,マーティンとオリバー,そしてデビッドは自分たちをその証人にしてくれるようジョセフに懇願しました。ジョセフが祈ると主はそれに答え,もしも彼らが心の底から主に頼り,真理を証する決意を持つならば,版を見ることができると告げられます。28
ジョセフはマーティンにはっきりと言いました。「あなたは今日,神の前にへりくだらなければなりません。そうすれば,罪の赦しを受けられることもあるでしょう。」29
少ししてから,ジョセフは3人をホイットマー家の近くの森に連れて行きました。彼らはひざまずくと,版を見せてくださるよう代わる代わる祈りました。しかし,何も起こりません。もう一度試みましたが,やはり何も起こりません。ついにマーティンが立ち上がると,天が閉じているのは自分のせいだと言い,その場を立ち去りました。
ジョセフとオリバー,デビッドが再び祈ると,彼らの上に,まばゆく輝く光とともに天使が現れます。30版を手にしたその天使は,版を一枚一枚めくり,そこに刻まれている文字を見せてくれました。ジョセフとオリバー,デビッドが再び祈ると,彼らの上に,まばゆく輝く光とともに天使が現れます。30版を手にしたその天使は,版を一枚一枚めくり,そこに刻まれている文字を見せてくれました。天使の傍らにはテーブルが現れ,その上にはモルモン書に記された古代の品物が置かれています。翻訳器と胸当て,剣,ニーファイの家族をエルサレムから約束の地へと導いた奇跡の羅針盤です。
すると,次のように宣言される神の声が聞こえました。「この版は神の力によって現され,神の力によって翻訳された。あなたがたが目にしたものの翻訳は正確である。わたしはあなたがたに命じる。今見聞きしたことを証しなさい。」31
天使が去った後,ジョセフが森の奥に歩いて行くと,マーティンがひざまずいて祈っているのが見えました。マーティンは,まだ主から証は受けていないが,金版を見たいと今でも思っていると言い,一緒に祈ってくれるようジョセフに頼みます。ジョセフはマーティンの横にひざまずきました。すると,祈りの言葉を言い終わらないうちに同じ天使が現れ,版とそのほかの古代の品物を見せてくれたのです。
「すばらしい,すばらしい。」マーティンは大声で言いました。「この目で見た,この目で見たんだ!」32
ジョセフとこの3人の証人は,その日の午後遅く,ホイットマー家に戻りました。メアリー・ホイットマーがジョセフの両親と歓談していると,ジョセフが部屋に駆け込んできます。「父さん,母さん。わたしがどんなにうれしいか分かりますか!」
ジョセフは母親の傍らに座り込み,こう続けます。「主があの版を,わたしのほかに3人の人にお見せになったのです。わたしが人々を欺こうとしているのではないことを,彼らは身をもって知ったのです。」
ジョセフは,大きな重荷を取り除かれたかのような気分でした。「これからは彼らもその一部を負うことになるのです。」ジョセフは言いました。「もうわたしはこの世でまったくの一人きりではないのです。」
次にマーティンが部屋に入ってきました。喜びがあふれんばかりです。「天から降ってきた天使を見たんだ!」と大声で言います。「神に祝福あれと,心から思います。自らを低くして,わたしのような者をも,御業の偉大さを証する者としてくださったのですから!」33
数日後,ホイットマー家の人々は,マンチェスターの農場でスミス家に合流しました。主が御自分の言葉を「適切であると見なされる人数の証人の口を通して」確かなものとされることを知っていたので,ジョセフは父親,ハイラムにサミュエル,またデビッド・ホイットマーの4人の兄弟,すなわち,クリスチャン,ジェイコブ,ピーター・ジュニア,ジョンと,義理の兄弟であるハイラム・ページとともに森に入って行きました。34
この8人は,スミス家の人々が個人の祈りをささげるためによく訪れる場所に集まりました。主の許可を得ると,ジョセフは版の覆いを取り,それを彼らに見せました。3人の証人のように天使を見たわけではありませんが,ジョセフは記録を彼らの手に持たせ,版をめくり,そこに刻まれている古代の文字を見ることができるようにしたのです。版を手に取った彼らは,天使と古代の記録に関するジョセフの証が真実であるという信仰を確固としたものにしました。35
今や翻訳が終わり,自らの奇跡的な証を支持する証人も得たのですから,ジョセフにとって,版はもう必要ありませんでした。この8人の男性が森を出て帰宅した後のこと,天使が現れます。ジョセフは神聖な記録を返し,その天使の手に委ねたのでした。36