第25章
信仰をもって前進する
「この世において成功と達成感を得るために必要なものが一つあるとすれば,それは信仰です。」
ゴードン・B・ヒンクレーの生涯から
「〔昔〕伝道に出るとき,父から(英語で)5つの単語を書いたカードを渡されました。それは,自分の娘の死を知らされた会堂
「ある日,ロンドンの新聞社のうち3社か4社が,1冊の古い本の復刻版に関する書評を掲載しました。モルモンの歴史と称するその本は悪意に満ち,その論調は卑劣なものでした。〔伝道部会長の〕メリル会長はわたしに向かい,『本の出版社まで行って,この件に関して抗議して来てほしい』と言いました。わたしは彼を見て,危うく『え,わたしがですか』と言うところでしたが,素直に『承知しました』と答えました。
正直言って,怖かったです。自分の部屋に戻ると,主にパロのもとに行くように命じられたモーセが感じたであろう思いに似たものを感じ,祈りをささげました。地下鉄でフリート街に行くためにグッジ街駅まで歩く間,胃がきりきりと痛みました。社長室を見つけ,受付の女性に名刺を渡しました。彼女はそれを持って社長の執務屋に行きましたが,すぐに戻って来ると,社長は多忙のため面会できないと告げました。わたしは,もう5,000マイル〔8,000キロ〕も旅して来たのだから待ちます,と答えました。それからの1時間,彼女は2,3度社長の執務室まで足を運びました。そして,ようやく社長に会えることになったのです。部屋に入ったときの光景を一生忘れないでしょう。長い葉巻をくゆらせながらわたしを見る彼の表情は,まるで『じゃまするな』と言わんばかりでした。
わたしは手に書評欄を握り締めていました。それから自分が何を言ったかはまったく記憶にありません。自分を通して別の力が語っていたような気がします。最初彼は反論する構えを見せ,けんか腰でさえありました。やがて態度が和らぎ始め,最終的には何らかの措置を取ると約束してくれました。それから1時間もたたないうちに,その本を全て出版社に返品するようイングランド中の書籍商に向けて指示が出されたのです。彼は多額の経費をかけて但し書きを印刷し,全部の表紙に貼り付けました。そこには,その本はフィクションにすぎず,歴史書と考えるべきではないこと,そして尊敬すべきモルモン信者に対していかなる悪意も意図するものでないことが明記されていました。後年,彼は教会に対してもう一つ大きな価値のある便宜を図ってくれました。そして,亡くなるまで毎年,わたしにクリスマスカードを送ってくれました。」2
出版社の社長室を訪れるという割り当てを受けたことで,ヒンクレー長老は,生涯を通じて自分の行動規範となる行いを実践したのだった。それは,信仰をもってチャレンジを受け入れ,助けを求めて熱心に主に祈り,それから仕事に取り掛かることである。
ゴードン・B・ヒンクレーの教え
1
天の御父とイエス・キリストを信じる信仰は目的意識を持った生活の源となり得る
この世において成功と達成感を得るために必要なものが一つあるとすれば,それは信仰です。信仰とは精力的で力強く,すばらしいものであり,パウロが宣言したように,それによって世界自体が創られたのです(へブル11:3参照)。わたしが言う信仰とは,単なる霊妙な概念などではありません。日常的で実用的な,役に立つ信仰です。わたしたちをひざまずかせ,主に導きを願い求めさせる信仰であり,一定の自信を授けられて立ち上がり,希望の結果をもたらすために働くよう動機づける信仰です。そのような信仰は比類なく貴重なものです。そのような信仰こそ,とどのつまりは,わたしたちにとって唯一偽りのない,永続する希望なのです。
……信仰は目的意識をもった生活の源となることができます。善を行ううえで何よりも強い動機づけは,わたしたちが神の子供であって,神がわたしたちに有意義な人生を送るよう望んでおられ,求めれば助けを与えてくださることを知ることです。……
……わたしが信仰について話すとき,それは抽象的なものではありません。それは,神を我々の父として,またキリストを救い主として認めることから生まれる,生きた,生命力としての信仰です。……
神性を持つ御方を信じる信仰,万能者を信じる信仰はまさに,わたしたちを変えることのできる最も大いなる力なのです。3
昔わたしは山岳地帯の山道を縫うように走る鉄道の会社で働いていました。列車にはよく乗りました。蒸気機関車の時代です。線路を走るその怪物は巨大で,速く,危険でした。わたしは,機関士は夜中によく長い距離を走らせるものだと不思議に思ったものです。しかし後で,列車は長い距離を一度に進むわけではなく,短い距離を積み重ねていくことに気づきました。機関車には強力な前照灯が装備されていて,400ヤード(約350メートル)から500ヤード(約450メートル)先を照らすことができます。機関士が見ているのはその範囲だけです。それでいいのです。前照灯は夜が明けるまで列車の前方を照らし続けてくれるのですから。……
わたしたちの永遠の旅路も同じです。一歩ずつ進むのです。そのようにして未知の世界を目指します。でも,信仰が行く手を照らしてくれます。信仰を養い育てれば,
教会員の誰もが直面するチャレンジは,次の段階に進むこと,つまり自分にはできないと感じるときでも召された責任を受けること,しかも主が行く手を照らしてくださるという確信に似た期待を胸に信仰をもって召しを受けることです。4
2
信仰は地上における主の業の証 と強さの土台である
教会の唯一の真の富は教会員の信仰にあります。5
実に大勢の人々が聖なる
……この貴く驚くべき信仰の
……この大義と王国の力は,どれほど膨大であっても物質的な財産にあるのではありません。それは教会員の心の中にあるのです。教会の成功の理由はそこにあります。力強く発展している理由はそこにあります。驚くべきことを達成できている理由はそこにあります。全ては,疑わず恐れずにただ前進する神の子供たちに全能者が授けてくださる信仰の賜物から来るのです。……
信仰は
福音はよき知らせです。これは勝利のメッセージです。熱い思いをもって受け入れるべき大義です。……
恐れてはなりません。イエスが,わたしたちの導き手であり,力であり,王なのです。
今は悲観的な考えがはびこっている時代です。わたしたちには信仰の使命があります。世界中の兄弟姉妹の皆さん,自分の信仰を再確認し,この業を世に推し進めようではありませんか。……
「兄弟たちよ,わたしたちはこのような偉大な大義において前進しようではありませんか。退かずに前に進んでください。兄弟たちよ,勇気を出してください。勝利に向かって進み,進んでください。」(教義と聖約128:22)これは,預言者ジョセフ・スミスが信仰をたたえて書いたものです。
この偉大な大義は過去においても栄光に満ちていました。それは,英雄的な行為と勇気と大胆さと信仰に満ちた時代でした。そして,主の
この教会の会員はどこにいようとも,力強く自分の足で立ち,心に歌を忘れずに前進し,福音に従い,主を愛し,王国の建設に励むよう一人一人にお勧めします。ともにこの道を歩み続け,信仰を保ち,全能者を力の源としていこうではありませんか。7
3
信仰があれば,恐れを乗り越え,生きていくうえで遭遇するどんな障害やチャレンジにも立ち向かうことができる
一体,不安や恐れを感じたことのない人などいるでしょうか。まったく感じたことがないという人に,わたしはいまだかつて出会ったことがありません。もちろん,人より大きな不安を抱く人もいます。すぐに不安を取り除くことのできる人もいれば,不安のとりこになって圧倒され,打ち負かされてしまう人もいます。人にばかにされるのではないかという不安,失敗を恐れるために感じる不安,孤独や無知への不安など,わたしたちはさまざまな不安に駆られます。現在に対して不安を感じる人もいれば,将来に対して不安を抱く人もいます。また罪の重荷を負い,その重荷から逃れるためなら何もかも手放してもよいと思いながら,生活を変えることを恐れている人々もいます。恐れや不安は神から来るのではないことをはっきりと認識しておかなければなりません。そうした
パウロはテモテにこう書き送っています。「神がわたしたちに下さったのは,
だから,あなたは,わたしたちの主のあかしをすること……を,決して恥ずかしく思ってはならない。」(2テモテ1:7-8)
この教会の全ての会員がこの聖句を見える場所に貼っておき,毎朝一日を始めるときにぜひ読んでほしいと思います。この言葉はわたしたちに,人に話す勇気とやってみる信仰を与え,主イエス・キリストに対する信仰をより確かなものにしてくれます。このことを行えば,地上にさらに多くの奇跡が生まれるでしょう。9
わたしはある日,故国から亡命してきた一人の友人と話をしました。国が滅びたとき,彼は逮捕され,抑留されました。妻子は逃れることができたのですが,彼は愛する家族と連絡を取るすべを絶たれたまま,3年以上も獄中生活を送らなければならなかったのです。食物も乏しい陰うつな生活環境の下で,事態の好転する見込みはありませんでした。
わたしは「暗い毎日で何があなたの支えになったのですか」と尋ねてみました。
彼はこう答えました。「信仰です。主イエス・キリストを信じる信仰です。重荷を主に委ねると,とても心が軽くなったように感じました。」10
万事うまくいく。心配しなくていい。わたしは毎朝そう自分に言い聞かせます。万事うまくいくのです。最善を尽くすなら,万事うまくいきます。神に信頼を置き,信仰と将来に対する自信をもって前進してください。主はわたしたちをお見捨てにはなりません。主がわたしたちをお見捨てになることはないのです。11
神を信じる信仰をさらに強めても今以上の成果を挙げることはできないと,誰が言えるでしょうか。どんなに大きな障害も,どんなに難しいチャレンジも,信仰があれば克服することができます。信仰があれば,生活する中で絶えずわたしたちをつまずかせようとする悲観的な要素を乗り越えることができます。また努力すれば,堕落や邪悪な行為へと導く衝動に打ち勝つ力を養うことができます。信仰があれば,欲望を抑えることができます。悲観し,挫折した人々に手を差し伸べ,わたしたちの信仰の強さと力で温めてあげることができます。12
4
わたしたちが信仰を働かせるとき,主は信仰を増し加えてくださる
自分の時間と才能を用いて神の業に働くならば,信仰は強くなり,疑いは徐々に消えていきます。13
教会は皆さんに多くのことをお願いするでしょう。さまざまな職で奉仕するようお願いすることになります。教会には専業の牧師がいません。皆さんがこの教会を教え導くのです。奉仕の業に召されるときはいつも,それを受けるように強くお勧めします。そうするなら,皆さんの信仰は強められ,増し加えられます。信仰はわたしの腕の筋肉に似ています。筋肉は使えば,そして栄養を与えるなら,強くなり,さまざまなことができるようになります。しかし,包帯で腕をつるしてまったく使わなければ,筋肉は徐々に力を失い,役に立たなくなってしまいます。奉仕する機会を全て受け入れ,召しを全て受けるなら,それを果たせるように主が助けてくださいます。教会は,主の助けを借りてもできないようなことを皆さんにお願いすることはありません。14
「〔主よ,〕わたしたちの信仰を増してください。」(ルカ17:5参照)わたしは全ての人のためにそう祈り求めます。不安や疑いの深い
……主よ,この神聖で偉大な業をあしざまに言う愚かな人々の攻撃を乗り越えることができるよう,わたしたちの信仰を増し加えてください。わたしたちの意志を強めてください。あなたの偉大な指示に従ってあなたの王国を築き,世に広げることができるよう助けてください。また,この福音があらゆる国々への
……さまざまな問題を抱えて苦しいときも,奇跡に満ちた将来を思い描くことができるように信仰を与えてください。
逆境の
「あなたがたの中に,病んでいる者があるか。その人は,教会の長老たちを招き,主の
信仰による
主よ,わたしたちが死の陰の谷を歩むときに,ほほえみを浮かべて苦しみを乗り越えられるように信仰を与えてください。それは,悲しみも恵み深い御父の永遠の計画の一部であり,この世の生涯の後にはより輝かしい栄光の世界が待っていて,神の御子の
あらゆる時代の人々に対してあなたの永遠の
父よ,大きな結果を得るために,小さなことについて与えられた勧告に従順になれるよう信仰を与えてください。……
主よ,わたしたちがお互いを,そして自分自身をより一層信頼し,善をなして偉大なことを行う力があるという自信を強められるように助けてください。……
主よ,わたしたちの信仰を増し加えてください。わたしたちに最も必要なのは,信仰を増し加えることです。ですから,愛する父よ,あなたとあなたの
研究とレッスンのための提案
質問
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ヒンクレー大管長は,神を信じる信仰は「わたしたちを変えることのできる最も大いなる力」であると教えました(第1項)。あなたはどのような経験を通して,信仰の力について学んできましたか。どのように,「未知の世界を目指〔すとき〕,信仰が行く手を照らしてくれ〔る〕」のを体験しましたか。
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教会の力の源について,第2項からどんなことを学べますか。信仰と犠牲にはどのような関連があるでしょうか。どうすれば「この業を世に推し進めよう」というヒンクレー大管長の呼びかけに従うことができるか考えてください。
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信仰に試練の中にあるわたしたちを助ける力があるのはなぜでしょうか(第3項参照)。信仰のおかげで恐れを克服することができたのは,どんなときですか。信仰のおかげで他の障害を乗り越えることができたのは,どんなときですか。
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第4項にあるヒンクレー大管長の祈りを読んでください。この祈りのどの言葉に特別な意味を感じますか。信仰は,疑念や疑問を克服するのをどのように助けてくれるでしょうか。さまざまな問題を抱えていても,信仰によって奇跡が見られるようになるのはどうしてでしょうか。
関連聖句
ヨハネ14:12-14;ローマ5:1-5;2ニーファイ26:12-13;モロナイ7:33-38;教義と聖約27:16-18
教える際のヒント
「聖文を定期的に研究し,