静けさがつまった小さなびん
著者はアメリカ合衆国ユタ州在住です。
おじいちゃんは,なぜゲージに何も入っていないびんをあげようとしたのでしょう。
ゲージは何も入っていない古いびんを見つめ,手に持ってうら返しました。それはくすんだ緑色をした小さなびんで,びんの口にはコルクがはめられていました。ゲージのバプテスマの後,ラッセルおじいちゃんがくれたものでした。
「これはいったい何なの。」ゲージが聞きました。「びんなのは分かるけど……何も入っていないし。」
「おや,いっぱい入っているよ」とおじいちゃんが言いました。
ゲージはびんをふってみました。「でも,ぼくには空に見えるけどな。」
おじいちゃんが笑いながら,コルクを外すと,小さなびんをゲージの耳の近くによせました。「聞こえるかい?」おじいちゃんがささやきました。
「聞こえるって何が?」ゲージもささやき返しました。
おじいちゃんはにっこりして言いました。「静けさだよ。」それから,コルクをはめ直しました。「今の世の中で,静けさをさがすのはかなりむずかしいことなんだよ。まるで薬のようで,その1てき1てきは金のように貴重なんだ。」
ゲージはありがとうを言って、おじいちゃんからもらった変なおくり物を家に持って帰りました。でも,そのことについてあまり考えませんでした。
2,3週間後,ビンスおじさんがなくなりました。お葬式の後,たくさんの親戚の人がゲージの家の居間に集まり,話していました。ゲージはそこをぬけ出すと自分の部屋に行き,ドアをしめました。1階からは,お父さんやお母さんや親戚の人たちが静かに話す声が聞こえます。
ゲージはつくえの上にあった古い小さなびんを見て,手にしました。両手で持って,びんをいろんな角度からながめました。おじいちゃんが,静けさは薬のようなものだと言っていたことを思い出しました。ゲージは,ビンスおじさんのお葬式の後,平安となぐさめを見いだす必要がありました。
ゲージはコルクを外すと,自分の頭の上で下向きにして,静けさを少しだけ出してみるふりをしてみました。ゲージはびんの中に本当に静けさがつまっているわけではないと知っていました。でも,自分には神様を近くに感じる静かな時間が必要だということは知っていました。
なみだがこみ上げてくるのを感じました。ビンスおじさんは,もうそこにはいないのです。おじさんのおかしな冗談も聞けないし,一緒にレスリングをすることもできないのです。おじさんがもういないことを考えると,ゲージの心はいたみました。
そのとき,静けさの中で,ゲージは心の中に何か温かいものを感じ,いたみが和らぐのを感じました。ビンスおじさんは永遠にいなくなってしまったわけではなく,ただ次の世に行っただけだということを思い出したのです。イエス・キリストと救いの計画によって,全ての人が永遠に生きるのです。ゲージは,いつかビンスおじさんにもう一度会えることを知っていました。
両手でびんを持ちながら,心が平安な気持ちに満たされるのを感じました。それはびんのおかげというわけではなく,聖霊によるものだと知っていました。びんはただ,静かになることで聖霊を感じられることを思い出させてくれたのです。ゲージはコルクをはめ,びんを置きました。
そして,家族や親戚のいる部屋にもどりました。自分の静かな部屋を出てからも,心の中に聖霊からの平安となぐさめを持ち続けることができました。