魔法のさいふ
このお話を書いた人は,アメリカ合衆国ネバダ州に住んでいます。
「選ぼう 選ぼう正義の道を」(『子供の歌集』82-83)
「あなたがオニよ。」マンディーはそう言って,弟をさわると,泳いでにげました。マンディーの家族は,新しい家に引っこすことができるまで,ホテルに住んでいました。お昼にラビオリ(四角い形の小さなパスタ)を電子レンジで温めて食べるのは楽しいことでした。そしてほとんど毎日,ホテルのプールで泳ぐこともできました。
でも,ホテルぐらしにはあまりよくないこともありました。マンディーたちの部屋のすぐ下がホテルのマネージャーのオフィスで,マネージャーは,マンディーたちのことをうるさすぎると思っていました。「頭の上にゾウのむれのようなうるさい音を聞きながら,どうやって部屋をかせると言うんですか」とお父さんに聞いてきました。
お昼ごはんの後,マンディーの弟のアーロンがベッドからゆかにドスンと飛び下りました。マンディーはびくっとして,お母さんを見ました。
「ジャンプはだめよ。つま先立ちで歩いてね」とお母さんが言いました。
でも,もう後の祭りでした。電話が鳴ったのです。
「あーあ。」マンディーは思いました。
電話に出て,マネージャーにあやまるお母さんの声が聞こえました。
お母さんは電話を切ると,かたをがっくり落としました。「ねえエドワード,マンディー,お母さんはアーロンとエミリーをお昼寝させないといけないわ」と言いました。「クリスティンとダニエルを散歩に連れて行ってもらえるかしら?」
ホテルの駐車場を横切ろうとすると,マンディーは地面に小さくて茶色い物が落ちているのを見つけました。
それはおさいふでした。中にはお金が入っていました。
「見て,エドワード!」マンディーはそう言って,おさいふを高く持ち上げました。
「これをすぐにマネージャーのオフィスに持って行かなきゃ」とエドワードが言いました。
マンディーは,胃がきゅっとなるのを感じました。なぜ今すぐに持って行かなければならないのでしょう。お母さんかお父さんが後で返すことはできないのでしょうか。
でも,マンディーは正しいことは何かを知っていました。
4人はオフィスのドアを開けると,おどおどしながら中に入りました。マネージャーはいやそうな顔をしました。「あの,駐車場でこのおさいふを見つけたんです」と言いながら,マンディーはふるえる手でおさいふをカウンターの上に置きました。
カウンターの所に立っていた男の人がこちらを見て,「わたしのさいふだ」と言いました。男の人は急いでおさいふの中身を見ました。「全部そのままだ。ありがとう,君たち。」
マンディーがマネージャーの方を見ると,不機嫌な顔ではなくなり,目がかがやいていました。
4人がオフィスを出ると,ダニエルが聞きました。「あれって,おさいふの魔法?」
「何で魔法だと思うんだい?」エドワードがたずねました。
「だって,いやな顔をしていた人が,喜んでくれたから。」
エドワードは首を横にふりました。「おさいふの魔法じゃないよ。ぼくたちが正しいことをしたから,喜んでくれたんだよ。」
マンディーは特別な気持ちを感じました。正義を選ぶと,人をそれほど幸せにするものだとは知りませんでした。
数日後,マンディーとお父さんは,1週間のホテル代をはらいに行きました。マネージャーはマンディーにほほえみかけてくれました。おさいふを見つけてからは,たった1度しか電話をかけてきませんでした。それも,正直でいてくれてありがとうという電話でした。マンディーは,新しい友達ができたように感じました。
「正義を選ぶって,ほんとうに魔法みたいだわ」とマンディーは思いました。お別れに手をふると,マネージャーも手をふり返してくれました。「それに,そんなにいやな人じゃないわ。」