これは,『聖徒たち—末日におけるイエス・キリスト教会の物語』という,4巻にわたる新しい教会歴史物語の第6章です。この物語は,14の言語で,印刷物および「福音ライブラリー」アプリの「Church History(教会歴史)」の項や,saints.lds.org/jpnで読めるようになる予定です。7月号で公開された第5章では,1828年に失われたモルモン書の翻訳の最初の116ページについて述べられています。
1828年の夏,ジョセフがハーモニーに戻ると,モロナイが再び訪れて金版を持ち去りました。天使はこう告げます。「あなたが十分にへりくだり,悔い改めていれば,9月22日に再びこれらを手にするであろう。」1
暗闇がジョセフの心に迫るかのようでした。2神の御心を無視し,原稿をマーティンに託してしまったのは間違いだと分かっていたからです。今や神はジョセフに金版を預けることもなく,翻訳者としても信頼できないとしたのです。ジョセフは,天からどのような罰が下ろうとも自分はそれに値すると感じていました。3
罪悪感と後悔にさいなまれたジョセフは,ひざまずいて罪を告白し,赦しを乞い求めました。どこで間違ってしまったのか,そして,もし主が再び翻訳をさせてくださるのなら,どこを改めればよいのかと思い巡らしました。4
7月のある日,自宅近くを歩いていると,モロナイが現れました。天使モロナイはジョセフに解訳器を渡します。そこには神からのメッセージが書かれていました。「神の業と計画と目的がくじかれることはあり得ず,またそれらが無に帰することもあり得ない。」5
その言葉に安堵するも,すぐ後に叱責の言葉が続いていました。「あなたに与えられた戒めは何と厳しかったことか。」主は語られました。「あなたは人を神よりも恐れてはならなかった。」主はジョセフに,聖なるものをいっそう注意深く扱うよう命じられたのです。金版に刻まれた記録は,マーティンの評判や人々を喜ばせたいというジョセフの望みよりも,はるかに重要なものでした。主は,御自分のいにしえの聖約を新たにし,イエス・キリストに頼って救いを得るようすべての人に教えるべく,その記録を備えられたのです。
主は御自身の憐れみを忘れないようにとジョセフに促し,「あなたが行ったこと……を悔い改めなさい」と命じられました。「そうすれば,あなたはまだ選ばれた者であ……る。」主は再び,ジョセフを預言者,聖見者として召されましたが,主の言葉をよく心に留めるよう警告し,こう宣言されました。
「それらを行わなければ,あなたは見放されてほかの人々と同様になり,もはや賜物を持つことはなくなるであろう。」6
その秋,ジョセフの両親はハーモニーに向かい南下しました。マンチェスターの家を出てから2か月近くたつのに,ジョセフから何の便りもなかったからです。二人はその夏の悲劇により,ジョセフが悲しみに沈んでいるのではないかと心配していました。ジョセフはわずか数週間のうちに,自分の最初の子供を亡くし,妻を失いそうになり,さらには原稿を無くしたのです。二人はジョセフとエマが元気にやっていることを確かめたいと思いました。
目的地まで残り2キロ弱という所で,ジョセフが穏やかで幸せそうに道の前方に立っているのを目にし,ジョセフ・シニアとルーシーは大喜びしました。ジョセフは,神からの信頼を失ったこと,その後罪を悔い改め,啓示を受けたことを両親に話しました。主の叱責は胸を刺すものでしたが,古代の預言者と同様,人々が読めるようにジョセフはその啓示を書き留めたのでした。それは,ジョセフが自分に与えられた主の言葉を記録した最初のものでした。
ジョセフはまた,その後モロナイが訪れ,版と解訳器を戻してくれたことも両親に伝えました。天使は喜んでいるようだったとジョセフは話しています。「主は,忠実さと謙遜さのゆえにわたしを愛してくださっていると,天使が教えてくれたのです。」
記録は家のトランクの中に隠され,安全に保管されていました。「今はエマが筆記してくれていますが,天使は主がわたしに筆記者を送ってくださると言いました。わたしはそうなると信じています」ともジョセフは両親に話しています。7
翌年の春,マーティン・ハリスは悪い知らせを携えてハーモニーにやってきました。彼の妻が裁判所に,ジョセフは金版を翻訳しているふりをしたペテン師だと申し立て,マーティンは裁判でその証人になるべく出頭要請を受けているというのです。ジョセフに騙されたと宣言しなければ,ルーシーはマーティンをも詐欺で訴えると言います。8
マーティンは,版の実在を示すさらなる証拠を差し出すようジョセフに詰め寄りました。マーティンは裁判で翻訳に関するすべてのことを話したいと思っていましたが,信じてもらえないのではないかと心配していたのです。ルーシーはスミス家を捜索するも,結局,記録を見つけることはできませんでした。また,マーティンは2か月にわたってジョセフの筆記者を務めましたが,版を見たことはなく,ジョセフがそれを持っていると証言することもできません。9
ジョセフはどうしたらよいかと主に伺い,友人のために答えを受けました。見よ,もし彼らがわたしの言葉を信じなければ,たとえあなた,すなわちわたしの僕ジョセフが,わたしからゆだねられたこれらのものをすべて彼らに見せることができたとしても,彼らはあなたを信じないであろう。主は,マーティンが謙遜になって信仰を働かせるまで,法廷で言うべきことを伝えることも,さらなる証拠を与えることもないと言われました。「もし彼らがわたしの言葉を信じなければ,たとえあなた,すなわちわたしの僕ジョセフが,わたしから委ねられたこれらのものをすべて彼らに見せることができたとしても,彼らはあなたを信じないであろう」と主は言われたのです。
しかし,もしジョセフがその夏に行ったように,へりくだり,神を信頼し,犯した過ちから学ぶのであれば,主はマーティンに憐れみを示すと約束されました。主は,時が来れば3人の忠実な証人が版を目にすること,人々から認められようとするのをやめれば,マーティンも証人の一人となることができるであろうと言われました。10
主は,最後にこう宣言されました。「もしこの時代の人々がその心をかたくなにしなければ,わたしは……わたしの教会を設けよう。」11
ジョセフは,マーティンがこの啓示を書き写す間,これらの言葉について思い巡らしました。それからエマとともに,誤りがないかを確認するため,マーティンが読み返すのを聞きました。読んでいると,エマの父親が部屋に入り,同じく耳を傾けます。聞き終えると,これはだれの言葉かと尋ねました。
「イエス・キリストの言葉です。」ジョセフとエマはそう説明しました。
すると,「すべては妄想だ。もう終わりにするんだ」とアイザックは言います。12
エマの父親の言うことは聞かずに,マーティンは啓示の写しを携えると,自宅へと向かう駅馬車に乗り込みました。マーティンはハーモニーに来て版の証拠を求めましたが,そこを発つころには,版の実在を証する啓示を得ていました。裁判でそれを用いることはできませんでしたが,マーティンは主が自分を御存じであることを確かに知って,パルマイラへと戻ったのです。
そうして判事の前に立つと,マーティンは簡潔ながらも力強い証を述べました。天に拳をかかげ,金版が確かに存在することを証し,主の業を行う目的でジョセフに惜しみなく50ドルを渡したと断言したのです。ルーシーの訴えを証明する証拠はなかったため,裁判所はこの訴えを棄却しました。13
一方ジョセフは,主が間もなく別の筆記者を与えてくださるよう祈りながら,翻訳を続けます。14
マンチェスターでは,オリバー・カウドリという若者がジョセフの両親の家に寄宿していました。オリバーはジョセフより一つ年下で,1828年の秋,スミス家の農場から南に約2キロの所にある学校で教鞭を執り始めていました。
教師は,生徒の家族のもとに寄宿することがよくありました。ジョセフと金版のうわさを耳にしたオリバーは,スミス家に寄宿できないかと打診してきたのです。初めのうち,スミス一家から詳細を聞き出すことはほとんどできませんでした。原稿を盗まれたことがあり,地元でうわさも立っていたために,スミス家の人々は用心深くなり,口を閉ざすようになっていたからです。15
しかし,1828年から1829年の冬の間,オリバーはスミス家の子供たちを教えながら,家族の信頼を得ます。この時期,ジョセフ・シニアは主が驚くべき業を始めようとしておられることを宣言する啓示を携えて,ハーモニーへの旅から戻っていました。16またそのころには,オリバーが真心から真理を求めていることが分かっていたため,ジョセフの両親は息子の神聖な召しについて口を開き始めていました。17
両親が語ったことはオリバーの心を捕え,オリバーは翻訳を手伝いたいと切に願うようになりました。ジョセフと同様,オリバーはその時代の教会に満足しておらず,この時代にあっても人々に御心を明らかにされる奇跡の神がおられると信じていたのです。18ところがオリバーはジョセフからも金版からも遠く離れた所にいたため,マンチェスターにいては翻訳の業を助けることはできないと思いました。
ある春の日のこと,雨がスミス家の屋根を激しく打つ中,オリバーはジョセフを助けるため,学期が終わり次第ハーモニーに向かいたいとスミス一家に話しました。ルーシーとジョセフ・シニアは,その望みが正しいかどうか,主に尋ねるようにと強く勧めました。19
オリバーは床に就くと,金版についてそれまで聞いてきたことが真実かどうか知るために,一人で祈りました。すると主は,金版とそれを翻訳するジョセフの様子を,示現で見せてくださったのです。オリバーは平安な気持ちに包まれ,ジョセフの筆記者になるべきだと確信しました。20
オリバーはこの祈りについてだれにも話さず,学期が終わるとすぐ,ジョセフの弟サミュエルとともに,160キロ以上も離れたハーモニーに向けて歩き始めました。春の雨にぬれた冷たい泥道を歩いたオリバーは,ジョセフとエマの住む家の戸口にサミュエルとたどり着いたころには,つま先が霜焼けになっていました。それでもオリバーは,この夫婦に会って,主が若き預言者を通して働いておられることを自分の目で確かめたくてたまりませんでした。21
ハーモニーに到着すると,オリバーはまるでずっとそこにいたかのような感覚を覚えました。ジョセフはオリバーと夜遅くまで語り,オリバーの話に耳を傾け,質問に答えます。オリバーが良い教育を受けていることは明らかで,筆記者になりたいという申し出をジョセフは快く受け入れました。
オリバーの到着後,ジョセフがまずしなければならなかったのは,作業場を確保することでした。ジョセフはオリバーに契約書を起草するよう頼みました。エマと一緒に住んでいた小さな家と納屋,農地,近くの泉の代金を,ジョセフが義父に支払うことを約束する契約書です。22エマの両親は娘の幸せを願って,この契約条件に同意し,ジョセフに対する隣人の不安が静まるよう助けることも約束しました。23
それと同時に,ジョセフとオリバーは翻訳を始めました。翻訳作業は数週間休みなく順調に進み,エマも同じ部屋にいて日常の家事をこなすことがよくありました。24ジョセフは時折,解訳器をのぞいて翻訳し,版に刻まれた文字を英語で読み上げました。
聖見者の石は一つだけ用いる方が扱いやすいと感じることがよくありました。ジョセフは帽子に聖見者の石を入れると,帽子に顔をうずめて光を遮り,石をのぞき込みました。石が暗闇の中で光を放って輝くと,言葉が現れます。それをジョセフが口述し,オリバーが素早く書き写したのでした。25
ジョセフは主の指示に従い,失われた翻訳原稿の部分を再び翻訳しようとはせず,記録のさらに先をオリバーとともに翻訳し続けました。サタンが悪人たちをそそのかして翻訳原稿を盗み,その言葉を変え,翻訳の信憑性を揺るがそうとしていることを,主は明らかにしてくださいました。しかし主は,版を作成した古代の預言者たちに霊感を与え,失われた部分より詳細な記述のある別の記録を備えておられたのです。これを知ってジョセフは安堵しました。26
「わたしは,わたしの言葉を書き変えた者たちを辱めよう」と主はジョセフに言われました。「わたしの知恵が悪魔の狡猾さに勝っていることを彼らに示そう。」27
オリバーはジョセフの筆記者として働くことに大きな喜びを覚えました。来る日も来る日も,ニーファイ人とレーマン人という二大文明に関する複雑な歴史を,友人のジョセフが口述するのに耳を傾けました。義にかなった王と邪悪な王,囚われの身に陥ってそこから救い出された民,また骨に埋まった原野で見つかった記録を翻訳するために,聖見者の石を用いた古代の預言者について知ったのです。ジョセフのように,その預言者は神の賜物と力を持った啓示者であり聖見者でした。28
その記録はイエス・キリストについて繰り返し証しており,預言者たちが古代の教会を導いた方法,また,ごく普通の男女がいかにして神の業を行ったかを,オリバーは知ったのです。
それでも,主の業に関してオリバーには多くの疑問があり,その答えが知りたくてたまりませんでした。オリバーのためにジョセフがウリムとトンミムを通して啓示を求めると,主はこたえ,こう宣言されました。「あなたはわたしに求めれば,与えられるであろう。あなたは尋ねるならば,大いなる驚くべき奥義を知るであろう。」
また主は,ハーモニーに来る前に受けた証を思い起こすようオリバーに語られました。その証についてオリバーはだれにも話していませんでした。「わたしはこの件についてあなたの心に平安を告げなかったであろうか。神からの証よりも大いなる証があるであろうか。」主は問いかけられました。「だれも知らない事柄をわたしがあなたに告げたので,あなたは証を得たではないか。」29
オリバーは驚きました。そして,自分がひそかに祈り,神から証を受けていたことを直ちにジョセフに告げたのです。神を除いてそれを知る者はいないので,この業が真実であることが分かったとオリバーは言いました。
ジョセフとともに翻訳の作業に戻ると,オリバーは自分にも翻訳ができるのではないかと考え始めました。30神は聖見者の石のような道具を用いて業を行われると信じていましたし,オリバー自身も占い棒を使って水脈や鉱脈を見つけたことがあったのです。しかし,その棒が神の力によって働いていたのかについては確信がありませんでした。啓示を受ける過程は,オリバーにとって依然として謎に包まれていました。31
ジョセフが再びオリバーに代わって主に尋ねたところ,主はオリバーが信仰をもって求めるならば,知識を得る力を持てると告げられます。オリバーの使った占い棒は,旧約聖書に出てくるアロンの杖のように,確かに神の力によって働いたと主は述べられました。また啓示についてオリバーにさらに教え,こう告げられました。「聖霊によって,わたしはあなたの思いとあなたの心に告げよう。さて見よ,これは啓示の霊である。」
主は,オリバーが信仰に頼るならば,ジョセフのように記録を翻訳することができるとも言われました。しかし,「信仰がなければ何も行えないことを覚えておきなさい」と告げられたのです。32
この啓示を受け,オリバーは翻訳ができると心躍らせました。ところがジョセフに倣って行ってみたものの,言葉は容易に出て来ません。オリバーはいらだちと混乱を深めていきました。
ジョセフは友人が葛藤しているのを見て同情しました。ジョセフが心と思いを翻訳の業に集中させるのには時間を要しましたが,オリバーはそれがすぐにできるようになると考えたようです。霊的な賜物を持つには不十分でした。霊的な賜物を神の業で用いるには,時間をかけて育み,伸ばす必要があったのです。
間もなくオリバーは翻訳を諦め,うまくいかなかった理由をジョセフに問います。
ジョセフは主に尋ねました。「あなたはわたしに求めさえすれば,何も考えなくてもわたしから与えられると思ってきた。……あなたは心の中でそれをよく思い計り,その後,それが正しいかどうかわたしに尋ねなければならない」と主は答えられました。
オリバーは忍耐強くあるよう教えられます。「あなたが今翻訳することは適切ではない。」主はこのように語られました。「あなたが行うように召されている業は,わたしの僕ジョセフのために筆記することである。」主は後に別の翻訳の機会を与えるとオリバーに約束されましたが,現時点でのオリバーは筆記者であり,聖見者はジョセフであると告げられたのでした。33