お茶かマンゴージュースか
このお話を書いた人はアメリカ合衆国カリフォルニア州に住んでいます。
このお話は,台湾での出来事です。
「どうしてお茶を飲みたくなかったの?」ジローは聞きました。
「正しくあれ」(『子供の歌集』81)
チュンは台湾のにぎやかな通りを歩いていました。友達のジローがすぐとなりにいます。辺りはたくさんの人でいっぱいでした!買い物客は売り物の服をながめ,子供たちは遊び,人々は携帯電話で話しながら急ぎ足で通りすぎていきます。チュンは学校用のかばんを落とさないように,しっかりとかかえました。
「もうすぐ今の学年が終わるなんて,信じられないな!」チュンはジローに聞こえるように大きな声で言いました。
「ほんとだよね!もう授業もなくていいのに」とジローが言いました。
チュンとジローが通りすぎる屋台では,様々な食べ物を売っています。ドラゴンフルーツにイチゴ。熱々のむしまんじゅう。ピーナツとアイスクリームのクレープ。おいしそうなにおいがそこら中にただよっています!けれどもチュンは,すごい暑さと湿気のことしか考えられませんでした。
「オーブンの中にいるみたいだよ!」チュンが言いました。
「ぼくもだよ」と,ジローが言いました。「何か飲むものを買おうよ。」
二人はあざやかな色のドリンクを売っている屋台の方へ歩いていきました。
ジローがお金を取り出します。「タピオカティーを二つください。」
チュンは,お茶は知恵の言葉に反することを知っていました。「すみません,ぼくはマンゴージュースにしてくれますか」と,チュンはたのみました。
ジローがふり向いてチュンを見ました。チュンはおなかのあたりがムズムズするように感じました。ぼくがお茶を飲まないことを,ジローに変に思われただろうか。
屋台の女の人が,冷たいタピオカティーをジローに,マンゴージュースをチュンにわたしてくれました。それから二人はまた通りにもどって,家に向かって歩き始めました。
ジローがお茶をすすりました。「お茶は飲みたくなかったの?すごくおいしいよ!」
チュンはくちびるをかみました。「えーっと,ぼくはお茶を飲まないんだ。」
「どうして?」
チュンは,この質問にどう答えようかと考えました。宣教師たちから,チュンは知恵の言葉を教わっていました。初等協会のクラスでチュンは,知恵の言葉を守れば,せいれいがともにいてくださることを学んでいたのです。
「ぼくは神様を信じていて,神様はぼくに,自分の体を大切にすることを望んでおられるんだ。神様は,ぼくたちにお茶やコーヒーやお酒を飲まないようにとおっしゃっているんだよ」とチュンは言いました。
「どうしてそれが分かるんだい?」ジローが聞きました。
「教会で教わったんだ。」
ジローはお茶をもう一口飲みました。「なんだか変だな。たかがお茶じゃないか!体に悪くなんかないよ。」
チュンは,おなかの中がはね回るカエルでいっぱいになったような気がしました。どうすればジローに分かってもらえるだろう?教会に行けば,だれかがジローに説明するのを助けてくれるかもしれない。
「今度,ぼくと一緒に教会に行かない?ぼくは末日聖徒イエス・キリスト教会に行ってるんだ。神様やイエス・キリストについて学べるよ。」
ジローは一瞬考えました。「いや,やめとくよ。」
「うん,分かった」とチュンは言いました。ジローが一緒に教会へは行かないと言ったので,チュンは少しがっかりしました。それでも,自分のあかしを分かち合えたことはうれしく思いました。
その週,学校で,チュンのたんにんのリン先生が,みんなを集めて言いました。「明日で授業は最後ですね。今年はみんなとてもよくがんばったので,わたしからごほうびがあります。全員でタピオカティーを飲みましょう!」
クラス中が歓声を揚げました。チュン一人をのぞいては。チュンは席についたまま,おしりを前にすべらせて後ろにもたれかかりました。先生に向かって自分がお茶を飲まないと言うのは,ジローに言うよりももっと大変そうです!みんなもきっと変に思うでしょう。ジローがそうだったように。
ジローが手をあげました。「リン先生。チュンはお茶を飲まないんです。宗教でそう決められているから。チュンはマンゴージュースを飲んでもいいでしょうか。」
リン先生がチュンの方を見ました。「そうなのかい?チュン。」
チュンはうなずきました。
リン先生はにっこりとほほえみました。「分かりました。チュンの分は,お茶ではなくてジュースをたのんでおきますね。」
放課後,チュンとジローは一緒に下校しました。「さっきはああ言ってくれて,ありがとう」と,チュンは言いました。
ジローはにっこりしました。「友達だろ。チュンにとって大事なことなら,ぼくにとっても大事なんだよ。」