「お母さん!」リジーは大声でさけびました。「マックスがわたしをずっとくすぐるの!やめてって言ってるのに。」
「やってないよ。」マックスは大声でさけび返しました。「ちょっとくすぐっただけなのに。リジーがぼくをつついてくるんだ!」
「子供たち!」お母さんが廊下の方へ声を上げました。「毛布のとりでを作るんじゃなかったの?けんかはやめて,手伝ってちょうだい。」
リジーは飛び出し,居間に走って行きました。それでもマックスは不機嫌でした。
リジーはどうして告げ口するのだろう。足を引きずりながら,マックスは不思議に思いました。くすぐるのって楽しいよね?それに,リジーはいつもぼくをつつくから,それもイヤなんだ。
マックスが居間にやって来たとき,お母さんはすでに毛布を山ほど出していました。マックスがお気に入りの黄色い毛布に手をのばしたのに,リジーが先につかみました。
マックスは毛布をリジーの手から引っぱりました。「ぼくのだよ!」
「返して!」リジーはまくらをつかんで,マックスのうでをたたきました。
マックスは「やめろよ!」とさけびました。ですが,リジーはマックスのもう片方のうでをたたきました。
「もう,子供たち!」とお母さんが言いました。「これはとりでの作り方じゃないわよね。」お母さんはゆかに置いてあるソファのクッションにすわって,マックスとリジーをとなりに引っぱり下ろしました。「さあ,みんなで深呼吸しましょう。」
マックスはお母さんのうしろを見て,リジーをにらみつけました。それから,深呼吸しました。
お母さんはマックスとリジーにうでを回しました。「もしだれかがあなたのいやなことをして,それをやめないとしたら,どんな気持ちになる?」
「いやな気持ち」と,リジーは静かに答えました。
「そうよね」と,お母さんが言いました。「つついたり,くすぐったり,まくら投げをしたりするのは,みんなが楽しんでいるときだけ楽しいのよ。やめるように言われたらやめることで,おたがいを尊重し合えるの。」
「でも,ただくすぐっているだけだよ」とマックスは言いました。
「マックスにとっては,くすぐっているだけかもしれないわね。でも,リジーにとっては,ほんとうにイヤなことかもしれないのよ」とお母さんは言いました。「天のお父さまが,わたしたち一人一人にすばらしい体を与えてくださったのは,大切にし,守るためなの。だから,『やめて!』って言ってもいいってことなのよ。」
「じゃあ,もうつついたらだめなの?」リジーはたずねました。
「つつかれるのはイヤだよ!」マックスはお母さんに言いました。「新しい家族のルールを作ってみたらどうかな?だれかがさわられたくなくて,『やめて』って言ったら,すぐにやめるんだ。」
「それはいいアイデアね」とお母さんが言いました。「リジーはどう思う?」
リジーはにっこりしました。「いいと思うわ。くすぐらないっていうことならね。」
「良かった」とお母さんが言いました。「だれかにさわられて,それがいやだったら,それをしないように言えるのよ。」
「いやなことをしているのがお母さんでも?」マックスはニヤッと笑いました。
「ええ。それがお母さんだろうが,お父さんだろうが,リジーや友達だろうが,やめてってことはやめるっていうことよ。言うことを聞いてくれなくて,さわってきたら,すぐにお母さんやお父さんに言ってね。」
「でもそれって告げ口じゃないの?」リジーはたずねました。
「告げ口じゃないわ」とお母さんは言いました。「その人がだれにも言わないでと言っても,言うべきよ。」
「つまりミンディーおばさんが来てもハグしなくていいってことなの?」リジーはたずねました。「ミンディーおばさんはきつくハグしすぎるからいやなの。」
お母さんはにっこりしました。「そうね,ミンディーのハグはちょっと強いわね。おばさんがハグしようとしたら,「いやだ」とは言わないで,さよならって言って手をふればいいのよ。問題ないわ。わたしもハグしたくない人がいるんだもの。」
マックスは目を大きく開いて,悲しそうにしました。「お母さんはぼくたちをハグするのがいやなの?」
お母さんはただ笑って,リジーとマックスをぎゅっとだきしめました。「まさか,そんなことないわ。あなたたちをハグするのは大好きよ。さあ,とりでを作ってしまいましょう!」
みんなでソファのクッションを立てて,かべを作りました。それから台所の椅子を引っぱり,毛布をかけました。リジーとマックスは中にもぐって,もう一つのクッションを入り口におしこんでドアを作りました。
リジーはにっこりして,マックスをつつこうとして手をのばしました。
マックスは「やめて」と言うと,リジーの指はマックスの目の前で止まりました。マックスはニヤッと笑って指をつき出すと,リジーをつつき返そうとしました。「分かった。さあ,行こうか。」