赤いチケット
このお話を書いた人は,アメリカ合衆国ユタ州に住んでいます。
あーあ!ダニエルはまたチケットを返さなければならないようです。
「神の言葉よく聞いて,みんなの光になりましょう」(「よく聞いて」『子供の歌集』71)
マテオは黒板の算数の問題を見ると,急いでノートに書き写しました。算数は大好きな教科だったので,よく注意して聞きたかったのです。でも,友達のダニエルが話していたので,サントス先生が言っていることがほとんど聞こえませんでした。
「しーっ!ダニエル,聞こえないよ!」マテオはささやきました。それでも,ダニエルは話し続けていました。ついにサントス先生に聞こえてしまいました。
「ダニエル,またじゃまをしているのね。」サントス先生が言いました。「前に警告したはずよ。チケットを出してちょうだい。」
ダニエルはゆっくりとつくえの中に手を入れると,サントス先生に赤いチケットを手渡しました。かたを落とし,ゆかを見ていました。サントス先生は,良い行動をした生徒や,指示にしたがった生徒にチケットをあげていました。毎日生徒はそのチケットに自分の名前を書いて,びんに入れるのです。悪い行動をしたときは,チケットを先生に返さなければなりません。毎週金曜日に,サントス先生はびんからチケットを1まい取り出します。そのチケットに名前が書かれてあった人は,クラスの宝箱から賞品を一つ選ぶことができるのです。ダニエルはおしゃべりをしたためにチケットをたくさん返さなければならなかったので,びんからダニエルの名前が書かれたチケットが取り出されたことはあまりありませんでした。マテオは,ダニエルがまた先生にチケットを返さなければならないのを気の毒に思いました。
休み時間になって,マテオはサッカーをするために外に飛び出しました。するとダニエルがブランコのそばに一人で立っているのが見えました。ダニエルが泣いているのが分かりました。マテオはダニエルを元気づけたいと思いました。
「サッカーやりたい?」マテオは聞いてみました。
ダニエルは何も言いません。マテオはもっと話しかけようとしましたが,ダニエルは向こうを向いてしまいました。
「サッカー場にいるから,気が変わったらおいでよ。」
マテオはそう言うと,ほかの友達と一緒にサッカーをしに行きましたが,それからもずっとダニエルのことを考えていました。マテオはもうすぐ8才になり,バプテスマを受けることになっていました。イエスのようになって,良い友達になりたいと思っていました。ダニエルが問題を起こさないように何かできることがあるでしょうか。
次の日,授業では小さなグループごとに物語を読んでいました。でも,ダニエルは本を読まずに,本を高く投げて遊んでいました。
マテオはそれをやめさせようとしました。「ダニエル,本で遊ぶんじゃなくて,読まないといけないんだよ。」
それでもダニエルはまた本を投げています。サントス先生が見ると,本はもう少しで天井にとどきそうでした。先生はダニエルのところに行くと,チケットを返してもらうために手を差し出しました。ダニエルはつくえの中に手を入れました。さがしているダニエルの顔が,パニックでゆがみました。
「あーあ。きっとチケットが1まいもなくなっちゃったんだ!」マテオは考えました。チケットが1まいもなくなったら,今度は休み時間に教室にのこらなければならなくなります。マテオは,頭をフル回転させて考え始めました。自分に何ができるだろう。そして,良い考えが思いつきました。
「ダニエル,もし1まいもチケットがないなら……」とサントス先生が話し始めました。
マテオは深く息をすいこむと,「ダニエルの代わりにぼくのチケットをわたしてもいいですか?」と聞きました。
クラスは静まり返りました。今まで先生にそんなことを聞いた人はいなかったからです。マテオには,先生が何と言うか分かりませんでした。
サントス先生はおどろいた様子でしたが,それからにっこりして言いました。「あなたはとても良い友達ね。いいわ。ダニエルのためにあなたのチケットを出してもいいわよ。」マテオはサントス先生にチケットを1まい渡しました。
「ありがとう,マテオ」とダニエルが言いました。
「いいんだよ!」とマテオは答えました。「一緒に読まない?」
ダニエルはうなずくと,本を拾いました。
ダニエルが本を読み始めるのを見て,マテオは心の中に温かくて幸せな気持ちが広がりました。その良いアイデアはせいれいが教えてくださったのです!マテオは,イエスが自分にダニエルを助けてほしいと思っておられることを知っていました。イエスはダニエルを愛しておられるからです。そしてマテオもイエスの愛を感じました!