2023
キリストの教義を信頼する
2023年5月号


10:30

キリストの教義を信頼する

キリストとの聖約の関係という土台の上に家を建てるとき,わたしたちはキリストの教義を信頼しているのです。

わたしは頭の中で,年老いた預言者ニーファイが尖筆を手に,金版を広げた机に向かっている様子を思い描いています。

ニーファイは,記録に最後の言葉を刻む作業を終えるところでした。「さて,わたしの愛する同胞よ,わたしはこれでわたしの言葉を終える」と記したのです。1しかしその後間もなく,御霊はニーファイに,記録を再開して結びの言葉を書き足すよう強く促しました。そこでこの偉大な預言者は,聖霊の力強い影響の下,再び尖筆を手に取りこう刻んだのです。「しかし,これまで書き記してきたことで十分である。ただ,キリストの教義については少し述べておかなければならない。」2

この「少し」3という言葉に対して,また,それらを書き記すようにとニーファイを駆り立ててくださった御霊に対して,わたしたちはどれほど永遠の感謝の念を抱いていることでしょう。キリストの教義に関するニーファイの論考は,それをよく味わう人々にとっての宝物となります。そこには,救い主のバプテスマの示現4に加え,御自身に従い5,「〔御自身〕が行うのを見たそのことを〔行う〕」ようにとすべての人を招かれる御子の声6が記録されています。また,キリストを信じる信仰を持って心から罪を悔い改め,救い主に従ってバプテスマの水に入る人は「聖霊を受ける。すなわち,そのとき火と聖霊によるバプテスマを受ける」というニーファイの証が含まれています。7さらに,御父が証される声も聞こえてきます。「まことに,わたしの愛する者の言葉は真実であり,確かである。最後まで堪え忍ぶ者は救われる。」8

ラッセル・M・ネルソン大管長は,新たに召された伝道部指導者を対象とする話の中で,キリストの教義が唯一無二の重要性を持つことをこのように強調しました。「わたしたちが宣教師に対して,何にも増して望むことは,キリストの教義が彼らの心に刻まれ,骨の髄にまで染み渡ることです。」9

キリストの教義における5つの重要な要素が,『わたしの福音を宣べ伝えなさい』に要約されています。こうあります。「〔わたしたちは〕人々をキリストのもとへ来るよう招〔きます〕。そのために〔わたしたち〕は,イエス・キリストとキリストの贖いを信じる信仰,悔い改め,バプテスマ,聖霊の賜物を受けること,最後まで堪え忍ぶことを通して,彼らが回復された福音を受け入れられるよう助けるのです。」10

しかし,キリストの教義の重要性は,宣教師にかぎられた話ではありません!キリストの教義は,その主要な5つの要素を単に要約して繰り返すこと以上の,はるかに深遠なもの,福音の律法を包括するものであり,永遠の命へと至る,偉大な計画なのです。

兄弟姉妹,キリストの教義がわたしたちの骨の髄まで染み渡るようにというネルソン大管長の招きを受け入れるためには,研究と祈り,忠実な生活,絶えざる悔い改めによって,主への改心を深める必要があります。ニーファイがキリストの教義を深く永く金版に刻んだように,「〔わたしたちの〕心の板」11にも,その教えを深く永く刻んでくださるよう,聖霊を招かなければなりません。

昨年10月,ネルソン大管長は,「世に打ち勝つとはどういうことでしょうか」と問いかけました。大管長はとりわけ,「人の哲学よりもキリストの教義を信頼することであ〔る〕」と述べています。12

信頼」という言葉は,「だれかや何かに関して,その性格や性質,能力,強さ,真実性に確信をもって頼ること」13と定義されます。その「だれか」とはイエス・キリストであり,「何か」とは主の教義です。

では,キリストの教義を意図的に信頼することで,わたしたちの生き方はどのように変わるのでしょうか。

キリストの教義を信頼するなら,キリストの言葉一つ一つに従って生きるほどにキリストを信頼することでしょう。14わたしたちはイエス・キリストについて生涯学びを深めるでしょう。15主の務め,主の教え,また主の栄えある復活を含め,主の無限の贖罪について知ろうとするのです。また,主の約束と,その約束が果たされる条件について学ぶでしょう。16研究する中で,わたしたちは主に対するいっそうの愛で満たされるはずです。

キリストの教義を信頼するならば,謙遜な,ひそかな祈りをもって,日々天の御父に近づくことでしょう。御子という贈り物,また受けている祝福のすべてに感謝を述べることができます。17啓示の源である聖霊を伴侶とするべく祈り求めること18,また思いを主の御心に沿わせ19,聖約について考え,聖約を守る決意を新たにできるよう20祈ることができるのです。預言者,聖見者,啓示者を支持し,愛を示すために祈りをささげ21,赦しがもたらす清めの力22,また誘惑を退ける力 23を祈り求めることができます。人生にあって祈りに重きを置き,日々神との対話を改善しようと努めるように皆さんをお招きします。

キリストの教義を信頼するならば,この世の魅力的な物事を脇に置き,世の贖い主に心を注ぐことができるようにするでしょう。24ソーシャルメディアやデジタルゲーム,無益で過度な娯楽や不適切な娯楽,この世の宝と虚栄という誘惑,また偽りの言い伝えや人の誤った哲学に場所を与えるその他の活動に費やす時間を制限したり,なくしたりするはずです。わたしたちはキリストにのみ,真理と永続する充足感を見いだすことができるのです。

心からの悔い改め25は人生にあって喜ばしい要素となり26,罪の赦しを受けるとともに,キリストの面影を受けた者へと変化を遂げるでしょう。27キリストへの信仰を伴う悔い改めにより,キリストの贖罪にあずかることができます。ダリン・H・オークス管長は,救い主が赦しをもたらされることに関して,このように教えています。主は,「罪から清める以上のことをしてくださいます。新たな強さをくださるのです。」28神の戒めを守り,人生の永遠の目的を果たすうえで,人はだれしもこの強さを必要としています。

イエスとその教義から,わたしたちは強さを得ます。主はこのように語られました。「まことに,まことに,あなたがたに言う。これがわたしの教義であるこの教義の上に建てる者はわたしの岩の上に建てるのである。地獄の門もこれらの者に打ち勝つことはない。」29

この約束は,忠実な人々の人生において成就しています。わたしがトラビスとケイシーに出会う幸運に恵まれたのは,一年余り前のことです。二人は2007年に市民結婚をしていました。当時,トラビスは教会の会員ではなかったのです。ケイシーは活発な末日聖徒の家庭で育ちましたが,10代のころに信仰から離れ,その土台からさまよい出てしまいました。

2018年,トラビスは宣教師に出会い,2019年にバプテスマを受けます。その後,トラビスはケイシーにとっての宣教師となり,ケイシーもまた人生を一変させるような改心を経験しました。そうして2020年9月,二人は神殿で結び固められたのです。バプテスマを受けてから約2年後,トラビスはビショップリックで奉仕するよう召されました。

トラビスには,内臓に腫瘍の塊が絶えず形成されてしまう希少疾患があります。繰り返し生じる腫瘍を摘出するために,これまで何度も手術を受けてきました。しかし,これは不治の病であり,トラビスは数年前に,余命10年足らずと宣告されていたのです。

一方ケイシーには,不可逆的に視野が狭くなっていき,やがては完全な失明に至る,「網膜色素変性症」という珍しい遺伝性疾患があります。

ケイシーは自分の将来について,わたしに語ってくれました。そう遠くはない未来に,夫を亡くし,視力を失い,経済的な支援を受けられない中,育ちざかりの4人の子供を独りで育てる時が来るだろうと,彼女は考えていました。どうしてそのような暗い未来を受け止めることができるのかと,わたしはケイシーに尋ねました。すると彼女は穏やかにほほえんで,こう答えました。「わたしの人生で,今ほど幸せと希望に満ちている時はありません。わたしたち二人は神殿で受けた約束を堅く守っているのですから。」

トラビスは現在,ビショップとなっています。2か月前に,またもや大きな手術を受けたばかりです。それでも,彼は楽観的で穏やかです。ケイシーの視力は悪化しています。今や盲導犬を必要とし,車の運転もできません。それでも,彼女は子供たちを育て,若い女性会長会の顧問として奉仕しながら,満ち足りて暮らしています。

トラビスとケイシーは,岩の上に家を建てています。トラビスとケイシーは,キリストの教義と,神が「苦難を聖別して〔彼らの〕益としてくださる」30という約束を信頼しています。神の完全な計画において,キリストへの信仰を伴う苦難は,キリストによって完全になる道へと通じているのです。31岩の上に家を建てた賢い人のたとえのように32,雨が降り,洪水が押し寄せ,風が吹き,トラビスとケイシーが建てた家に打ちつけても,家が倒れることはないでしょう。岩を土台としているからです。33

雨や洪水,風は,人生において生じる可能性があることではなく,むしろ嵐が起こるのは確実なことであると,イエスは語られました。このたとえにおいて変えられる部分は,嵐が来るか来ないかではなく,主の教えに耳を傾けて行うようにという,主の愛ある招きにどう応じるかなのです。34生き延びる方法はほかにありません。

キリストとの聖約の関係という土台の上に家を建てるとき,わたしたちはキリストの教義を信頼しているのであり,主のもとに向かうなら,永遠の命という主の約束を受けるのです。キリストの教義を信頼する人々は,キリストを確固として信じながら力強く進み,最後まで堪え忍びます。このほかに,天の王国における救いへと至る道はありません。35

イエス・キリストがよみがえられ,今も生きておられることを個人的に証します。わたしたちを罪から贖い36,憂いから癒そうと37その御子を遣わされたほどに,父なる神がこの世を愛してくださったことを証します。神はこの時代における御自身の預言者,すなわちラッセル・M・ネルソン大管長を召されたこと,神が大管長を通して語り,わたしたちを導いておられることを証します。

キリストの教義を信頼し,贖い主の岩の上に人生を築くよう,心の底から皆さんをお招きします。主は決して皆さんをお見捨てにはなりません。イエス・キリストの御名により,アーメン。