自転車兄弟
このお話は,南アフリカ,ハウテンでの出来事です。ザム・S,お話を分かち合ってくれてありがとう!
ザムは遊びたい気分ではありませんでした。けれども,ジナシとの思い出を作りたい気持ちもありました。
「わたしのすてきな家族……固くいつまでも結ばれたい」(『賛美歌』187番)
ザムは青い自転車で庭をビュンビュンと走ります。2才の弟のジナシが,赤いおもちゃのスクーターに乗って後ろからついてきます。
「さあ,もう1回行くぞ!」庭のはしに着くと,ザムはそう言いました。ぐるりと向きを変えて,ペダルをできるだけ速くこぎながら,家の前までもどります。風が顔にぶつかってきます。
「ザムとジナシ!」ザムはさけびました。
ジナシが笑います。ジナシもザムと一緒にさけびました。
「ザムとジナシ!ザムとジナシ!」
二人は何度も何度も庭を横切って走り,やがてザムの足はくたびれて,もうペダルをこぐことができなくなりました。
「ひと休みしよう。」息をはずませてザムは言いました。
「こっちに来て休みなさい。」トランポリンのところからパパがよびました。
ザムは自転車をとめ,ジナシの手を取りました。小さな弟を助けて,トランポリンにのぼらせてあげます。それから自分もトランポリンに乗って,パパのとなりにすわりました。
「楽しんだかい?」パパが聞きました。
「うん!」ジナシが言いました。
ザムは,ふうっと息をはきながらトランポリンの上であおむけになりました。上に見える空は青く,太陽のあたたかさをはだに感じます。
「今日はすごくいい天気だね。」パパが言いました。
ザムはうなずきました。ザムは目をとじ,パパがジナシに話をしている間,鳥の鳴き声に耳をすませました。だんだんとねむくなってきます。
「ザム。」
ザムは目を開けました。ジナシがこちらの顔をのぞきこんでいます。
「何だい?」ザムは聞きました。
「出発しよう!」ジナシは自分のスクーターを指差しました。
「あとでね。今は休んでるから。」
ジナシが口をとがらせます。
「ごめんな」とザムは言いました。「すごくつかれてるんだ。」
ジナシはザムのうでをひっぱりました。「行こうよ!」
「いやだよ!ジナシとはもう遊んだだろ!」
「ザム」とパパが言いました。
ザムはパパの方を見ます。
「いつか大きくなったとき,ジナシはきっと,お兄ちゃんと一緒にどんなふうに遊んだかを思い出す。ザムが今作る思い出が,ジナシの心で生き続けるんだよ。」
ザムは弟の茶色い大きな目を見つめ返しました。
「お願いだよ。」ジナシは言いました。
それでもザムは,まだ遊びたい気分ではありませんでした。けれども,ジナシとの思い出を作りたい気持ちもありました。
ザムはにっこりと笑いました。「分かったよ。」
ジナシの顔がぱっと明るくなりました。「やったあ!」
ザムはトランポリンからピョンと飛びおり,ジナシをもう一度スクーターに乗せてあげました。それから,自分の自転車にまたがります。
「じゅんびはいいかい?」とザムは言いました。
「うん!」
二人は一緒に庭を走っていきます。「ザムとジナシ!」と,声を合わせてさけびます。
ザムはまだつかれを感じていましたが,それは気持ちのいいつかれでした。ジナシの後ろでペダルをこぐ足に,力がこもります。ジナシがこのことを覚えていてくれるといいなと,ザムは思いました。ぼくはずっとわすれないからね。