第25課
家庭貯蔵
目的 家庭貯蔵プログラムを推し進める。
家庭貯蔵を行う必要があるのはなぜか
スペンサー・W・キンボール大管長は,貯蔵について次のように勧告しています。
「教会はかねてから1年分の貯蔵,すなわち1年分の生活必需品の貯蔵を行って維持するように勧告してきました。わたしたちはそのことを再び強調します。……
それぞれの家族が1年分の必需品を蓄えるようにお勧めします。わたしたちはこのことについて何度も,何度も話し,主の次の言葉を繰り返し,繰り返し引用してきました。『わたしを主よ,主よ,と呼びながら,なぜわたしの言うことを行わないのか。』」(Conference Report,1976年4月,171;Ensign,1976年5月号,125)
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生活必需品の貯蔵について,預言者は何をするように勧告していますか。
J・ルーベン・クラーク・ジュニア副管長は,次のように語っています。
「すべての家長に,最低1年分の食糧と衣料,可能であれば燃料も合わせて貯蔵させてください。」(Conference Report,1937年4月,26)
食糧や衣料,その他の生活必需品を1年分貯蔵するようにという助言は,幾つかの理由から賢明な勧告と言えます。町や地域全体が洪水,地震,猛吹雪などの災害に襲われると,交通が遮断され,食糧や他の物資を市場まで運ぶのが不可能になります。また政情不安により,あるいは運送業者や船員,鉄道員などのストライキにより,食糧の運送が妨げられることもあります。干ばつや台風,洪水,あるいは戦争が原因で,多くの国がききんに見舞われました。またいつ同じことが起こるともしれません。地域全体がそのような災害を受けると,幾らお金があっても食糧や他の物資が手に入らない状態にしばしば陥ります。病気や失業という非常事態を経験し,収入の道が断たれたために家庭貯蔵に頼らざるをえなくなる家族もあるでしょう。
チェリー・リー・デービス姉妹は,非常時の経験を通して家庭貯蔵に関する証を得ることができました。デービス兄弟姉妹は改宗してから家庭貯蔵について学びましたが,しばらくの間実践しようとしませんでした。二人は遠方に引っ越す計画を立てていたため,すぐに貯蔵を始めるのは賢明でないと考えたからです。そうは思いながらも,デービス姉妹は無意識の内に貯蔵を始めていました。彼女は買物に行く度に,少し余分に食糧を買っていたのです。しばらくして,台所の食器棚は貯蔵品でいっぱいになり,寝室にまで置かなければならなくなりました。夫から何をしているのか尋ねられて,彼女はこう答えました。「食糧貯蔵をしているようね。」そして理由を聞かれると,「しなければならないから」としか答えられませんでした。ほかにこれという理由が見つからなかったからです。彼女はさらに次のように語っています。「わたしはこのことについて祈れば祈るほど,食料品を買わなければいけないと強く感じました。そして,自分が主に従順であるということで,心の奥底から安堵感を覚えました。」
デービス姉妹は実習会に出たり,本を読んだり,実際に様々な調理法を自分で試したりして,貯蔵品を使った調理の仕方について学びました。こうして一通りの備えができたと思ったとき,さらに多くの食糧を買うようにと強く感じました。彼女は自分の行動について次のように述べています。「わたしはなぜそうなのか祈りました。でも何の答えも得られません。もっと貯蔵しなければならないと感じるだけなのです。わたしは戸惑いながらも,その思いに従いました。引っ越すときに借りる予定のトラックは,貯蔵品で大きなスペースを取られるのは確実でした。」
ついに引っ越す日になって荷物をトラックに積んでみると,家具のほかに貯蔵食糧を詰めた箱を15個か20個ほどかろうじて積むことができました。トラックの借り賃や家賃,そのほかの代金を支払うと,手元に残ったお金はわずかでした。それだけでなく,デービス兄弟はすぐに就職口を見つけることができませんでした。その後ようやく仕事を見つけましたが,賃金があまりに安いために,請求書の支払いを済ませると食費は残りませんでした。デービス姉妹はこのときになって初めて,貯蔵をしなければならなかった理由を知りました。それは,結婚生活で最も経済的に苦しかった数か月のための食糧になったのです。
貯蔵食糧で過ごした数か月間を振り返って,彼女は次のように語っています。「わたしは思わずほほえみました。無限の愛と知恵を持っておられる主は,あれだけ貯蔵をしないと頑張っていたわたしを導き,備えができるようにしてくださいました。この小さな奇跡を通して,非常に価値ある教訓を得ることができました。」(“Our Small Miracle,” Ensign,1978年8月号,21)
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デービス家族は貯蔵プログラムを家庭で行うことにより,物質面でどのような祝福を受けましたか。
家庭貯蔵を行うことによって,非常時に生活に困らないという物質的な祝福を受けるだけでなく,霊的な祝福にも恵まれます。預言者から与えられる戒めや勧告の言葉にすべて従うならば,わたしたちの信仰と証は強められます。そして,従順の結果として,想像も及ばないような霊的な報いを受けることができるでしょう。
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デービス家族は霊的な面でどのような祝福を受けましたか。
ある家族は貯蔵を計画的に行っていましたが,大洪水に遭ってすべてを失い,家畜も皆,おぼれて死んでしまいました。この家族は大きな被害を受けたにもかかわらず,次のように言っています。「戒めに従って生活するならば,何が起ころうとも道は備えられます。……蓄えてきた食糧はすべて流されてしまいましたが,わたしたちの心には,預言者から言われたことを行ってきたという平安がありました。また,霊的な備えもできているので,今なら,起こったことに立ち向かうことができます。」(ゲリー・アバーントとカーリーン・ホランド,“LDS in Texas Safe after Flood,” Church News,1978年8月12日付,4)
1年分の蓄え
家族は将来に備えて様々なものを貯蔵できますが,本課では食糧と衣料について,また貯蔵が許される地域では燃料についても学びます。目標は家族の生活必需品を1年分貯蔵することです。家族の生活を維持するために1年分を今すぐ貯蔵するとなると,ほとんどの人は困難に感じたり,まったく不可能であると考えたりします。しかし,順序立てて貯蔵していくならば,1年分の貯蔵は実現可能な目標となるのです。1年分という目標を達成するには,もっと短期の目標から始めるとよいでしょう。ある家族は,1週間分の貯蔵にも大変な努力を払わなければならないかもしれません。そうかと思えば,3週間,2か月,1年間と目標を立てて,何の問題もなく達成できる家族もいるでしょう。数日分あるいは数週間分という短期目標が達成できたら,また新たに目標を立てて,最終的に1年分の貯蔵ができるまで努めればよいのです。
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あなたの家族は現実的な目標として,何日分から貯蔵を始めますか。
食糧貯蔵
十二使徒定員会のエズラ・タフト・ベンソン会長は,次のように語っています。
「主はききんが来るとわたしたちに警告されましたが,義人は預言者の声に聞き従って最低1年分の食糧を蓄えるでしょう。……
食糧を貯蔵するという啓示は,ノアの時代の人々にとって箱舟に乗り込むことが必要であったように,現代のわたしたちにとってこの世での救いに欠かせないものかもしれません。……
わたしはこの福祉プログラムが神の霊感によることを知っています。わたしは大管長の指示を受けて,第二次世界大戦後の荒廃したヨーロッパを単身で1年ほどまわり,窮乏する教会員に食料や衣料,寝具を配り,この目で悲惨な飢えと貧困とを見てきました。わたしは餓死寸前にくぼんだ聖徒たちの目を見つめ,栄養失調で歩けない3,4歳の子供たちを抱えて運ぶ忠実な母親たちの姿を見てきました。……また,アメリカの聖徒から送られた小麦や豆に両手をうずめて泣いている大人たちを見てきたのです。」(Conference Report,1973年10月,90-91,93;“Prepare Ye,” Ensign,1974年1月号,69,81-82)
食糧は健康を維持し,生命を保つうえでなくてはならないものです。したがって家庭貯蔵プログラムの中で最も重要な部分を占めています。家族が好んで食べる基本食品を貯蔵し,非常時に食糧を無駄にしないように調理法を知っておくことが大切です。非常時といえども健康維持にはバランスのとれた食事が必要ですから,様々な食物を貯蔵してください。貯蔵量は家族の必要に応じて決めます。
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調理法を知っていて,家族が好んで食べ,家庭に貯蔵できる食品には何がありますか。
貯蔵食品は永久的に保存できるものではありません。したがって,貯蔵品を回転させることが必要です。貯蔵期問の長い物から食べ,代わりに新鮮な食糧を保存します。この回転は計画を立て,継続的に行うようにします。
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貯蔵食品はどのように回転させればよいでしょうか。
貯蔵食品を適切に回転させる一つの方法は,購入した日か貯蔵した日を包装紙に記入することです。そして購入日が新しい食品は棚の奥に,古い食品は手前に置くようにします。そうすれば,調理するときに古い物から順に使うことができます。
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食糧は様々な方法で保存できます。
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食糧の保存法を挙げる(『末日聖徒の女性A』第26課「家庭生産」参照)。
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地元で効果的にできる食糧保存法には,どのようなものがありますか。
食糧の保存法を選ぶときには,費用,必要な用具,有効性を考慮します。それは地元の人にとって新しい方法なのか,それとも昔から多くの人が行って有効性が実証された方法なのか考えてください。
保存した食糧は,清潔と安全性を保てるように貯蔵しなければなりません。保存方法にかかわりなく,食糧貯蔵に欠かせない原則が幾つかあります。
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食品を低温に保つ。直射日光の当たらない暗い場所に貯蔵する。
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湿気を防ぐ。乾燥食品は使う前にしけると,だめになります。それ以外の方法で保存した食物も,湿気が多いと傷みます。
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容器に入れて保存する。密閉容器に食物を入れれば,ほこりの付着を防ぎ,昆虫やねずみ,鳥,にわとりなどから守ることができます。
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あなたの家の中で,冷暗所はどこですか。
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食糧を湿気から防ぐにはどうすればよいでしょうか。(缶,ポリ袋,箱,清潔なびん)
食糧をほこりや動物から守るにはどうしますか。(密閉容器に貯蔵する。容器を高い所に置くか,つるす。動物がはい上がれないように,金属製の足などで床から離して置く)
水の貯蔵
非常時に備えて水を貯蔵する必要があります。まずきれいな水を貯蔵することから始めます。容器は清潔で密閉できるガラス製のものか,丈夫なプラスチック製のものを使います。こうすればかなりの期間貯蔵できますが,数か月おきに貯蔵した水を捨てるか,使うかして,新しい水を補給するとよいでしょう。貯蔵した水が安全かどうか疑わしいときは,最低10分間煮沸して消毒します。または家庭用漂白剤か塩素を少量加えても消毒できます。この場合,水1リットルに漂白剤または塩素を2滴か,水20リットルに茶サジ半杯を入れるようにします(『扶助協会テキスト』1974-75年,85参照)。
衣類の貯蔵
余分の衣類を貯蔵しておくと役立ちます。活動的な成長期の子供はすぐに衣服が着られなくなるので,そのような子供のいる家族にとって衣服の貯蔵は欠かすことができません。また,家族の衣服もいつかは着られなくなります。季節によって気候の移り変わりの激しい地方では,余分に蓄えておくべきでしよう。
成長期の子供のいる家族の場合,サイズの合わなくなった衣服を取っておいて,次の子供に着せるようにするとよいでしょう。着古した衣服は,小さな子供用に再製できます。また,新しく衣服を縫うために布地を貯蔵しておくのも役立ちます。破れた衣服を繕うために,針,糸,そのほかの裁縫道具も確保しておきましょう。さらに,洗剤や石けん(浴用,洗顔)なども家庭貯蔵に加える必要があります。
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自身の生活から判断して,どのような衣服を貯蔵すると役立つでしょうか。
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まだ自分の家庭を築いていない未婚の女性は,家庭貯蔵プログラムでどのような備えができるでしょうか。
エズラ・タフト・ベンソン長老は,第二次世界大戦後のドイツを訪問し,家庭貯蔵を完全に行うことの価値を実証する体験をしました。ベンソン長老は,500名以上の聖徒に説教した後で,「母親たちに前に来るように言いました。そして,一人一人に石けんを1個ずつ配りました。こんな小さな贈り物でも,渡されると感謝の涙を流している人たちがいました。……
最後に,妊娠している母親と授乳をしている母親が前に来るように言われました。……ベンソン長老は,大きなオレンジを1つずつ渡しました。……彼女たちにとって,それは思ってもみないすばらしい贈り物でした。
前に来た母親の一人は,ベンソン長老がスーツケースから配給品を取り出すときに針と糸をしまうのを見つけて……オレンジの代わりに1巻きの糸と針をもらえないか尋ねました。……やがてこの母親は,糸と針を持って席に戻って行きました。彼女が中央通路にさしかかったとき,……ある姉妹が彼女を呼び止めて言いました。『……姉妹,わたしたちにもその糸と針を貸してくださいますね。わたしたちもとても必要なんです。』」(ボニー・J・バベル「感謝の心」『聖徒の道』1971年2月号,53参照)
ごくありふれていても非常に大切な品物が欠乏したために,この人々は大変な苦労を味わいました。わたしたちは家庭貯蔵プログラムを完全に行うならば,このような苦難に対処できるように自らを備えることができます。
燃料の貯蔵
わたしたちは燃料も貯蔵する必要があります。燃料は非常時に調理をするために必要になります。さらに,冬など寒い日には,室内を暖房するためにもなくてはならないでしょう。
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あなたの地域では,どのようにして調理用の燃料を蓄えることができるでしょうか。
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寒い日に室内を暖房するには,どのような準備が必要ですか。
まとめ
わたしたちはこれまで,家族が1年間自給できるように食糧,衣料,燃料,さらには救急用具や裁縫道具を含む生活必需品を貯蔵するように勧告されてきました。必要な物を一度にそろえるのは不可能に思えるかもしれませんが,わたしたちは家族の状況に合わせて小さな目標を立て,買い物の度に幾らか余分に買うことにより,家庭貯蔵プログラムを始めることができます。家族でこのプログラムを行うならば,物質的また霊的に大きな祝福を受けることでしょう。主は次のように勧告しておられます。「備えていれば恐れることはない。」(教義と聖約38:30)
エズラ・タフト・ベンソン長老はこう言いました。「預言者とこの霊感された福祉プログラムについて,また自ら管理して自分の家族と他の人々のために備えをしている聖徒たちについて,神に感謝したいと思います。これはシオン山の救い手となるための何とすばらしい方法でしょうか。」(Conference Report,1973年10月,93;“Prepare Ye,” Ensign,1974年1月号,82)
チャレンジ
家庭貯蔵プログラムについて家族で話し合う。貯蔵を促進するために具体的な計画を立て始める。貯蔵したい食糧を列挙し,家族の状況について考え,最も適した保存と貯蔵の方法を決める。燃料,衣料そのほかの必需品の貯蔵についても考える。
参照聖句
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創世41-45章(ヨセフの貯蔵した食糧によって救われたエジプト人とイスラエルの民)
教師の準備
レッスンの前に,以下の事柄を行う。
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『末日聖徒の女性A』第26課「家庭生産」を読み,食糧の保存と貯蔵の方法を復習する。一人の姉妹に,上記の資料を参考にして食糧の保存法について発表するように依頼する。
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地元で貯蔵しやすい食糧と,効果的な保存と貯蔵の方法についてできるかぎり調べる。食糧の伝統的な貯蔵法を知っている年長者に尋ねる。できれば本課で学ぶ方法に従って食糧を保存し,貯蔵してクラスで提示する。
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飲料水の消毒方法について分からなければ,保健所などに問い合わせて効果的な方法を教えてもらう。
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『末日聖徒の女性A』第21課「財政管理」,第22課「家族の栄養」,第25課「家庭菜園」と,本書の第22課「妊産婦と乳児の健康管理」を参考にして財政管理,栄養,菜園に関する質問に答える。
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本課の引用文と聖句の発表を生徒に割り当てる。